らいち

物語る私たちのらいちのレビュー・感想・評価

物語る私たち(2012年製作の映画)
4.5
女優サラ・ポーリーが自身の出生の秘密を探るドキュメンタリー映画。監督サラ・ポーリーの映像作家としてのセンスが光る感動作。出生の秘密を探るなかで、幼い頃に亡くした母の知られざる恋が明らかになる。「当時、母親に何が起こったのか?」。映画は、父親(夫)、兄弟、異父兄弟、母の友人たちの証言によって、その答えを見出そうとする。浮上するのは母の人物像だ。舞台女優であった母は、明るく外交的な性格であり、誰かを愛し、誰かに愛されることに忠実な人だった。女優として、母親として、女として、生前輝いていた母の生き様が1つの物語として鮮やかに蘇る。真実は1つであり、それを語れるのは本人しかいないのだが、それは当然叶わない。どんなに彼女を思いやり、どんなに彼女を理解している関係者であっても、個人の意思と記憶が介在する証言(物語)からは、母の真実に辿りつくことができないのだ。それぞれの証言を編集し、1つの映画にまとめ上げるこの映画製作自体も真実を歪める行為であることをサラ本人も承知している。そして、その真実を導く行為は、いわば「暴露」であり、サラ本人、そして母親の名誉に繋がるものだ。それでも映画は「物語る」意味があると示す。それに気付いたときに、縁もゆかりもない一家の問題が、身近で普遍的な物語となって目の前に現れる。完全にしてやられた。「人生は喜劇からは逃れらない」。エンドクレジットに明かされる、もう1つの証言が印象的で思わずニヤリ。サラ・ポーリー凄い!そして素敵!【75点】
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