かつを(@katsuwow)

あなたを抱きしめる日までのかつを(@katsuwow)のネタバレレビュー・内容・結末

あなたを抱きしめる日まで(2013年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ル・シネマにて

50年間、実は男の子を産んでいた未婚の母であったことを隠し続けていたフィロミナは娘のジェーンに打ち明け、フィロミナと職を失っていたジャーナリストのマーティンと共に生き別れとなった場所・修道院のあるアイルランドに向かう。実は修道院は了解なく子供を海外養子に出していたことを知ったフィロミナとマーティンはアメリカへ息子を探す旅に出ることになるロードムービー。

フィロミナには007の「M」や「マリー・ゴールドホテルで会いましょう」のジュディ・デンチ、マーティンにはスティーヴ・クーガン。アイルランドやアメリカを二人と一緒に旅しているような気分になる映像も魅力的。

そして、この二人の掛け合いがところどころ微妙にズレててくすっと可笑しい。ちょっと空気を読まないけども、悪意がある訳ではないフィロミナは可愛いおばあちゃんが冒険しちゃうぞ!っていう若々しさがあるけど、その冒険の理由は非常に重くて辛い。だからなんとも言えない泣き笑いになってしまった。

フィロミナは敬虔なカトリック信者。息子を売り飛ばされた事も事実であるが、修道院によって自分も子供も救われたという思いがある。「自分が許せない」というのはセックスが良かったと思ってしまったから、っていうのもシュール。マーティンへ話すトーンが、怒りどころかどこかの昔話みたいに客観視しているところ印象的だった。

正直、実の子供を勝手に養子に出される裏切り行為をも「赦す」その懐の深さを理解し難い。50年間の「ひと目会って、謝りたい」という思いで人は非道を赦すことができるのだろうか。マーティンと同じ立場に立って「なぜ?」と思わずにいられなかった。それは宗教観が人生の真ん中にある人との違いなんだろうか。

怒るマーティンを時になだめて旅行を進めるうちに、息子が母を恨んでいなかったということを知り、フィロミナの心は氷塊する。いつまでも怒っていても、怒りは何も生まないというフィロミナ。そのフィロミナにとって次への一歩が踏み出せるエンディングで良かった。