やっちくん

彼女と彼女の猫 -Their standing points-のやっちくんのレビュー・感想・評価

4.3
新海誠を5分に凝縮した一作。
日常の中の何気ない一つ一つの風景を誇張しすぎたぐらいに美しく描き、しかしくどくない。

そしてミミは例外として1対1の「ぼくときみ」の話である。色んな人々が生きていてマンションや電車、社会があるというのはきちんと描写されているのだが、「世界中に2人だけみたい」という空気を突き詰めている。

忙しない日々の中、バイト先の先輩に上司、経済や世間体など色んな外的要因にぶつかりながら生きている。普通の人には全部の事柄を想って対応していくなんて不可能だ。せめて考えられるのは、「お互い」の、「2人」のことだけなのだ。そんな突き詰めた1人と1人の関係性や感情の機微を、日常の風景に溶け込ませながら暖かく、寂しく、鮮やかに描かれている。

「空気感」というものをここまではっきり伝えられるのは、新海誠だけだと思う。

見る人の感性に大きく委ねる作品なので、「何が言いたいの?」と感じる人も少なからずいると思う。しかし、ただただ過ごしていく毎日を、何気ない普通の毎日を、つまらないと思いつつも「愛している」人には、何か伝わるものがあると思う。

毎日見ている夏の空も、この作品の空を見れば原風景を思い出すかもしれない。暖かさと寂しさを内包しているというのは、日本人が古来より好いてきたわび・さびに通ずるものがあり、言語化できない趣を味わう心を揺さぶるのだ。

そして新海誠のちょっとした変態性やキモさが、女性のねちっこいまでの描写に表れていて、また魅力的になっている。

新海誠の原点にして頂点でもあると思う。
やっちくん

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