ヘソの曲り角

インセプションのヘソの曲り角のレビュー・感想・評価

インセプション(2010年製作の映画)
4.0
ノーランは「メメント」にて逆行する物語を観客の頭の中で再構成させることで普段我々がしている記憶の編集作業を意識的に体験させてみせたが、本作では夢を編集によって体験させる。

誰もが夢の最初を知らない。いつの間にか夢の世界に入っている。映画において、何の説明もなくある場面からある場面に映像が飛んでも我々がその文法を無意識に了解しているため物語を理解するのに困らない。間違ってたら申し訳ないがこれがクレショフ効果のはずだ。連続する前のシーンと後のシーンに連関を見出さずにはいられない。そこをノーランは逆手に取った。場面が円滑に繋がっているように見えて実際のところ位相は夢と現実で隔たりがある。現実のシーンを見ていたはずがいつの間にか夢のシーンに転換しているのだ。

と、まあ前半は極めて映画的な表現で見るものを魅了しつつ人の夢の中に入って産業スパイをしてる人たちの説明をこなしていく。なんだかんだあって世界的大企業の御曹司の夢に入って会社を解体させるよう暗示をかける、その作戦は夢を3層構造にして順序立ててすり込みを行うという壮大なものだった、というのが大枠。しかしながらこれと並行して描かれる、主人公が作り出してしまう亡妻や子どもたちのイメージとの決別が実際のテーマになっているのだ。(サイトー曰く)世界を救っているのだが、同時に自分も救っちゃうというめちゃくちゃなことがこの設定では成立して、さらに方法が精神分析というこれまた極めて映画と親和性のある(20世紀的総決算と言っても過言ではない)ものなのである。詳しいことはフロイトやらラカンやらちゃんと勉強した人じゃないと分からんと思うが、けっこうすごい映画だと思った。

何より本作を傑作たらしめているのが上記のようなテーマとアクション映画としての面白さを両立させている点にある。まず映画としてテンポがとにかくいい。体感120分無い。夢の位相が変わるごとに戦いの舞台も変わるので展開が多い。雪山での戦闘はかなり面白い。何より最高なのが第二層のホテルでの戦いで、第一層の夢で車が横転した影響で天地逆転する空前絶後のアクションが展開されるところだ。数々の映画作家が捧げてきた「恋愛準決勝戦」オマージュは本作によって完成した。このアクションを完全にやりきった(おまけに無重力アクションまで)ジョセフ・ゴードン=レヴィットが本当に素晴らしい。

それでいて面白いのがけっこう展開が行き当たりばったりでガバガバなところ。テーマはがっちり決まってるけどストーリーはプロ集団とは思えないほど計画が共有されてなかったりリサーチ不足だったりでピンチを招く変な展開なのだ。80年代っぽいある種のてきとうさが割り切っててすごいと思う。