よしおスタンダード

トム・アット・ザ・ファームのよしおスタンダードのネタバレレビュー・内容・結末

4.0

このレビューはネタバレを含みます

No.2624

【ドランの"挑戦状"を、どう受け取るべきか】

正直、スコアをつけるべきかどうか、悩みました。
無評価でレビューだけ書くべきか。

でも、4.0をつけたのは、「ドランに対する"賭け"」です。

その意味は最後に言います。

まず、ドランの映画は異常に美意識が高いので、綺麗だなぁ、次はどんなの撮るのかなぁ、と思うのですが、

本作に関しては「二度と見たいと思わない」。

どうしてこういうストーリー展開になるのか、僕にはまったく理解ができない。1mmも理解ができないのです。

トムやフランシスたちの心理状態が理解できないのはもちろんなのですが、そもそも、どうしてこういう脚本にしたのか、そのドランの意図が見えないのです。

「なぜ、トムは、自分の仕事を持ちながら、農場から逃げないのか」

「サラは、フランシスに会っていきなりビンタされるのに、やっぱり彼女も逃げない」

身の危険を感じているのに、そこに留まる心理がまったく理解できない。

フランシスがなぜ、あんなにクズなのか、人格破綻者なのかも、よくわからない。

一つドラン監督が保険をかけているとすれば、彼はコカインをやっていた。トムにも強要している。

「ドラッグ」をやっているから、フランシスはおかしくなった、という安易な保険です。

フランシスは恐らくドラッグ常習者でしょう。

元から常習なのか。

それとも、ラストで明かされる「事件」を起こしてから、自棄になって手を出すようになったのか、それはよくわかりませんが、

フランシスが異常な暴力性を帯びているのは、ドラッグをやっていたから、という、短絡的な理由に落ち着いてしまう可能性があるのは、脚本としてどうなのか。

すると、トムがずるずる農場にとどまって、時々変なテンションになるのも、コカインをあの後もたびたびフランシスに強要されてやっていたから、という風に、受け取られる可能性がある。

それは正直、ドラマツルギーとしては、つまらない。

フランシスが街では問題児扱いなのも、何か大きな理由があるのだろうと、臭わせておきながら、

結局、弟をゲイ呼ばわりした奴を半殺しにした、という、

申し訳ないけど、想像の範囲内なんですね。

もっと、ドラマとしてカタルシスと言うか、「そりゃあ、そんなことがあれば、フランシスも、あんなクズになっちゃうよな」というものがないと、なかなか見てるほうは気持ち的に厳しい。

それと、母親なんですが、もちろん、「表面的にこの映画を見れば」一番かわいそうなのは母親なんですけど、

どうも、そんな表面的でいいのかな、という疑念が湧いてくる。

僕なんか「実は母親は、ギヨームとトムが付き合っていたのは知っていた」んじゃないか、とすら思えてくる。

フランシスが事件を起こしたことは母親も知ってるわけだし、その理由だって知ってた可能性がある。

ギヨームとトムの関係性を知ってた上で、もし、本当にトムが葬儀に来たら、フランシスを使ってトムをいじめてやりたい、と思ってたって、僕にとっては不思議じゃない。

だって、お母さんは、実の息子を失っているのは事実なのですから。しかもその理由がよくわからない。事故としか知らされていない。

もっと言いたいことが山ほどあるww

これ、批判してるように聞こえるかもしれませんが、これだけ僕に考えさせている、という意味では、褒めてる一面もあるんです。めんどくさくてごめんなさいね。

つらつらととりとめもないレビューになってしまいましたが、

要は、ここまで僕が混乱しながらも、結局飽きさせずにこの映画を一気に見てしまえたのも、

そもそも、観客の心理状態を「混乱」させたのも、ドランの戦略、というか、全部計算済みなんじゃないかと。

「全部、答えがあると思うなよ」という、ドランの挑戦状。

もし、そうじゃなくて、直感的に、野心的にこの映画を撮った結果、観客を混乱させているのだとすれば、

ドランの評価は今後厳しくなるかもしれません。

だから、私は、彼の映画をもっと見たいので、4.0という高スコアをつけることによって「彼の映画作家としての将来性」に賭けたのです。

10/60 https://www.uplink.co.jp/cloud/features/2311/