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激戦 ハート・オブ・ファイトのIDEAのレビュー・感想・評価

3.8
このまま朽ち果てるのだろう…と思っていた男が生きる意味を見出し、過去に正面から向き合い闘い抜く魂の物語。


まずは、素晴らしい作品であったにも関わらずなぜこのスコアか、という点。
落ちぶれたボクサーのファイ、ふとしたきっかけで一緒に暮らすことになるクワンとシウタン母子、自分が何者かを証明しようともがく若者スーチー…総合格闘技の大会での激戦を見どころとして描かれる今作、キャラクター付けは上手いがどの人物の目線でも丁寧に描こうとしたためにやや冗長になってしまったように感じた。
今作がもし100分程度でまとめられていたら…すさまじい傑作に感じられたような気がする。

さて今作。
シルヴェスター・スタローンの名作『ロッキー』が"栄光を手掴みにするための未来への闘い"とすれば、今作の主人公ファイの相手は"昔の自分"であり"己の人生を清算するための過去との闘い"だったのではないだろうか。

トレーニングシーンのBGMにもロッキーとファイの闘うべきものの違いが表れているように私は感じていて、『ロッキー』が眩しい朝日に向かっていくように気分が盛り上がるあの名BGMなのに対し、今作で使われたのはS&Gの『The Sound of Silence』だ。(カバーではあるが。)

いや、暗いっしょ。どう考えても栄光の舞台に駆け上がろうとする人のトレーニングシーンでは使わないっしょ。
しかし!この選曲こそが、今作を一段と素晴らしいものに仕上げたポイントであろうと思う。
ファイには後ろ暗い過去があり、それが原因で今の人生にも影が落ちている。社会から弾かれた自分の姿、そしてボクシングの師の想いを裏切ったあの時の過ちが『The Sound of Silence』の歌詞に重なるようで、悲哀に満ちながらも趣き深い屈指の名シーンとなったのではないか。

今作をご覧になった方、ぜひ『The Sound of Silence』の歌詞をこの作品に重ね合わせてみてほしい。
主人公ファイだけでなく他の登場人物それぞれに通じるものがあるように感じられるはず。
それがまた、今作を一層素晴らしいものに押し上げてくれるのだ。

間違いなく観てよかった作品。
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