タチユロ氏

NOのタチユロ氏のレビュー・感想・評価

NO(2012年製作の映画)
3.5
第三次世界大戦が起きるとしたら情報戦になるだろう、なんてどこかの学者が言っていた気がするが、この映画を見るとその言葉の意味がよくわかる気がする。
この映画で描かれるのはCMを用いた情報戦、またはプロパガンダ戦、もっといえば印象操作戦、もっと言葉を選ばなければ洗脳戦とも言えるかも。

舞台は1987年、チリ。
長年独裁体制を敷いてたピノチェト政権に国際的な批判が集まり、その信任・不信任を問う国民選挙が実施される。
主人公のレネはTV-CMを生業とする広告マンで、独裁政権に反抗する「NO派」のCM制作、およびメディア戦略を担うことになる。つまり、レネに課された任務はCMを使って国民を不信任投票へ扇動することだ。

そこでレネが取る戦略が面白い!
彼はあえて軽くて楽しい、とにかくキャッチーなMTV感覚のCMを作っていく。悲惨な現実を訴えたい気持ちも分かるがそれは視聴者が気付かぬようそっと忍び込ませ、選挙に行くことと「NO」と声を上げることのハードルを低くしていく方針を取る。そのためには子供も歌えるキャッチーなCMソングやクスッと笑える大人なジョークCMが必要なのだ。

当然のことながら、インテリ左翼が主なNO派の活動家たちからは非難轟々、それを押し切って実際にCMに効果が上がってくると今度は独裁政権側に命を狙われる羽目になっていく。そんな散々な目に遭っても、レネは独裁の牙城を崩すためにCMを作り続ける。
大人たちが命を張ってシリアスに議論を重ねてやっとできたCMが内容的にはすごくくだらないってのも面白い。

これを見るとCMマンを舐めちゃいかんなと思わされる。そして印象操作ってのはポップで楽しいものの中にこそ潜んでいるぞと。

ただ映像としては80年代に実際に使われていたような質感が再現されていて、たしかに味わい深くはあるけれど正直見づらい…
そこだけ乗り越えれば面白いよ
タチユロ氏

タチユロ氏