ドS文筆家あんじゅ

ある精肉店のはなしのドS文筆家あんじゅのレビュー・感想・評価

ある精肉店のはなし(2013年製作の映画)
4.5
「観る!」と覚悟が決めるのに勇気がいったし、チケットを予約したあとも直前までやっぱやめようかな…と迷った作品。結果、観てとても良かった。

もっと観ていてつらい気持ちになるのかなと思ってたけど、北出家の方たちが終始明るくて前向きなので楽しく鑑賞できた。とは言え2回出てくる屠殺の瞬間のシーンはショッキングだったし、部落差別について語られるシーンも多く、気軽に鑑賞できたわけではない。周囲には泣き出す人も数名いた。

水平社宣言に感銘を受けて部落開放活動に身を投じた長男の新司さん。牛飼いをやめたのをきっかけに太鼓作りを本格的に始めた次男の昭さん。お料理が上手で盆踊りの仮装は一段と気合が入っていた長女の澄子さん。みんな明るいけど辛い思いもたくさんしてきたんだろうなと思うとその笑顔に泣けてしまう。

映画はたくさん観れば良いというわけではない、と考えているが、『ある精肉店のはなし』には、最近見た『福田村事件』『月』『愛にイナヅマ』を思い出させるシーンがあって、本数をそれなりに見てると作品を重層的に見られるようになるというメリットもあるんだなぁ…と考えたりもした。

同じ日に観た『NO選挙、NO LIFE』でも感じたが、収支トントンならマシとも聞くドキュメンタリー映画を作るのはきっととても大変だ。でも、ノンフィクション映像が果たす社会的意義はとても大きい。意義深いことなのに経済的な成功には繋がりにくいところに悔しさも感じるが、それでもドキュメンタリーを作り続ける作り手の方たちや、上映し続ける独立系映画館には敬意しかない。自分には出来ないな、とも思うし、自分も同じような活動をやらなきゃいけないんじゃないか、とも思う。