かつを(@katsuwow)

ある精肉店のはなしのかつを(@katsuwow)のレビュー・感想・評価

ある精肉店のはなし(2013年製作の映画)
4.0
黄金町ジャック&ベティにて

小学生の頃、少し太り気味でからかわれてた男の子が給食で出てくる肉が食べられなくて昼休みの掃除の時間も残されて食べてた。理由は動いてる可愛い豚が捌かれて肉になったということを知ったからだという。本当かよ…と当時思った。

そして大人になって、獣医師の友達が食肉処理の現場で働いていて、動物を割ってからの有様を初めて見た時には肉が食べられなかった、と言っていた。

食肉処理を見た事のない私。映画を観た人がほとんどであろうけど、冒頭に出てくる頭を割るシーンで息を飲んでしまった。へなへなとへたり込む牛が手際良く捌かれ、精肉として売られている姿になっていく。

モツは言うまでもなく、骨のクズと呼んでいた骨に張り付いた細かい肉まで綺麗にこそげ落とし、無駄を全く感じない。まさに命をいただくという言葉を実感した。
屠畜の際に決して激しく血が飛び散るような切り込み方をしてないんだな…という印象も受けた。「殺すんじゃないんだな」ってそんな感じが頭に残った。

この作品ではそういった食肉を取り巻く営みだけでなく、北出一家の生い立ち、家業を取り巻く偏見も折り込んでいる。声高に叫ばず主張をしているからこそ、こんなに生き物に敬意を払い、生きていくには必要な仕事が差別の対象になっているのかと疑問を持つだろう。

地域の繋がり、そして婚姻関係によって新たに築く関係、未来の形。屠場の閉鎖で北出家の仕事のスタイルは変わる。だが、変化に対応していくこの一家を観て、何か希望を感じることができた。

一連の流れを経ての最後の屠畜が最初の場面での「動物の死」ではなく、「生」を得るための尊いもののに見える。人間、生かされてるなぁ。