SHOHEI

アバウト・タイム 愛おしい時間についてのSHOHEIのレビュー・感想・評価

3.9
過去をさかのぼる能力が一族に備わっていることを父から告げられた青年ティム。弁護士となりロンドンに出た彼はレストランで出会ったメアリーと打ち解け、恋が進展する。しかし下宿先に戻ると同居人ハリーの舞台が大失敗に終わったことを知る。ティムは過去に戻りハリーの舞台を成功させる。タイムリープを行ったことでメアリーとの出会いは帳消しとなり、ティムは再びメアリーと出会うためさらにタイムリープを行う。

シットコム『Mr.ビーン』や『ノッティングヒルの恋人』の脚本を手がけた90年代コメディ、ロマコメの名手リチャード・カーティスの2013年の引退作。タイムリープやタイムスリップにまつわる映画は歴史修正という観点から見ると扱うリスクが非常に高い題材。あの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズですら歴史修正主義という見方からすれば批判は免れない。事実の積み重ねである歴史、そして他人の人生がさじ加減ひとつで容易く覆されてしまうことに不快感を覚える人も多い。それがタイムリープものの作品が孕む最大のリスク。

前提として本作で扱うタイムリープのルールは非常に曖昧。細かいパラドックスやツッコミどころは考えるだけ野暮。自分自身へのリスクはほとんど無く無制限にタイムリープを繰り返せるというかなり極端で振り切った設定。ティムは序盤からその能力を際限なく扱う。人によってはここで嫌悪感を感じると思う。しかし自分の為だけではなく他人(といってティムと親しい周囲に限るが)の幸せのためにも彼は能力を使用する。時には二者択一を迫られ「こちらの時間軸を取ればあちらの時間軸は成り立たず」といったリスクも生じる。また物語のスケールは比較小規模で歴史改変の影響力はティムの身近で完結する。最も重要なのは人間の死という自然の摂理を否定するような描写はないこと。これらが作品への抵抗感をだいぶ薄めているように感じる。最終的にはタイムリープを拒絶し「限られた人生を尊ぶ」という落とし所にはまっており、リスクの高い題材を上手く丸め込んだ印象(存在そのものを否定されたティムの息子だけは気にかかるが)。

おもしろさのミソはティムの父親もタイムリープの経験者であるという点。タイムリープは父と息子だけの共通の秘密事であり、家族の中でもひときわ浮いた関係性を描いている。ラストでティムは誰も知らないであろう父とのかけがえのない思い出を永遠に仕舞い込む。それを決して表情に出さないところが感動的だ。
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