こーた

ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅のこーたのレビュー・感想・評価

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アメリカの真ん中はモノクロだ。
きらびやかな「色」があるのは、海岸沿いにある一部の大都市(それはぼくたちが想像する、夢の国アメリカでもある)だけで、この映画で描かれる中西部および南部には、長閑な風景以外、なにもない。圧倒的田舎。でもこれもアメリカなのだ。

ラシュモア山の山肌に穿たれた、有名な四人の大統領像を見て、主人公の老人ウディ(ブルース・ダーン)がいう。
「ワシントンしか服を着ていないじゃないか。あとは作りかけでやめた、という感じだ」
これがまさに、いまのアメリカを象徴する言葉ではないか。
着飾っているのは、首都ワシントンD.C.(とその周辺)だけで、大陸の真ん中は、作りかけで取り残されている。

田園の広がる美しい景色以外、なにもない街だが、そこにもひとは住んでいる。老人ばっかりだけど。
100年前の、モノクロ映画の時代から、その暮らしはほとんどかわっていない。
楽しみといえば、昔ばなしと、車のはなし。そして酒。人生に希望を見出すのは難しい。

ウディは、チラシの宝くじに夢を見る。明らかな嘘。それを頑なに信じることで、老い先短い人生に、変化をもたらそうとする。
あんなチラシを真に受ける人間はウディくらいかもしれないが、現実はもっと狡猾だ。
マイカーを、マイホームを、という夢に踊らされてローンを組まされ、破綻した挙句に分断のすすんだこの国の現状を考えると、チラシの宝くじのほうがよほど健全だし、なにより無害だ。

夢も希望も乏しい街だか、貧しさからくる悲愴感とは、無縁の物語である。
ほほえましいシーンの数々には、人間のおかしみがつまっている。要約するとすべてが失われてしまうような情景を、ていねいに描いていて、よくできた短編小説を読んだときに似た悦びを与えてくれる。

宝くじの賞金をもらいにいく道中、家族の過去が、歴史が語られていく。息子もはじめて知る物語。なかには聞きたくもない痴話も交じっているけれど笑、ふだんは恥ずかしくて、面と向かっては聞けない自らのルーツを知るのは、誰だって楽しい。
「そんなはなし、いままでしてくれなかったじゃないか」
「だって、おまえが聞かないから」
そんな、どこの家庭にもありそうなやりとりを、そのまま切り取ってきたような雰囲気がおかしい。
希望、というにはあまりにもささやかな、寓話のようなラストにもほっこりさせられる。

こういう映画をもっと観たい。と、大都市にしか住んだことのないぼくは呑気に思う。