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シンデレラのごはんのレビュー・感想・評価

シンデレラ(2015年製作の映画)
4.0

 全ての女性へ、という宣伝文句に勿体無さを感じた。この映画は、優しさと気高さを忘れず生きる全ての人に向けられている。

 プロットはディズニー版で知られているシンデレラをほぼなぞるが、細部や枝付けを補足することで展開を自然に仕上げている。それは「オリジナル版は現代では通用しない」と明言しているようなもので破廉恥ととれかねないが、しかし今作の補足は丁寧にぶれずに重ねることで単体のアイデンティティを得るまでに至っていた。

 テーマは、シンデレラの母から伝えられた「勇気と優しさがあれば幸せになれる(唯物的なものが得られなくとも)」ということだと思う。「夢と希望を信じていればいつか手に入る(王子様と結婚できる)」とは違うのだ。

 この映画は、大切な人の命を失った後、その悲しみを優しさに変えることができた者と、逆に世界への憎悪に変えてしまった者の物語だ。ここで肝心なのは、別れが互いの意思による別離ではなく、死別などトラブルによる別離であること。逆に言えば、「愛が完全なまま」の別れであることだろう。シンデレラもそうだが、王子もそうだ。死別の多い話だが、少なくともそこには意味がある。

 母から「完全な愛」を受け継いたシンデレラは、母の伝えのとおり、勇気と優しさを失わず生きていた。心折れそうになったときに訪れた魔法は彼女を救ったが、それが与えたのは「王子に会えてそして迎えた結末」ではなく、彼女が彼女らしさを失わない後押しだったのだろう。繰り返すが、「夢と希望」ではなく「勇気と優しさ」なのだ。母と父との思い出はシンデレラを永遠に支え続けるだろうし、そして王子と添い遂げられずとも、彼女は人生を良きものにすることができただろう。

 そんなシンデレラが、継母からしてみれば羨ましくてしょうがなかったのだろう。継母は唯物的な獲得がなければ幸せを感じ取れない人間だ。継母はあるとき「自分の物語がすでに終わっていると」嘯き、一応すぐにそうではないと訂正したが、彼女が心を変えない限り確かに人生は終わっている。

 最終的には絵本どおりの結末になるが、その直前「仮に王子に再会できなかったとしてもひと時の思い出で強くなれることを彼女は知っていた」(とナレーションで説明しちゃってるのは俗っぽいが)というシーンがあるが、これがこの映画の着地点だといっていいはず。靴の会う女性を探すシークエンスが冗長に感じたのは、これ以降の物語は自分にとってはすでに完結後だったからかもしれない。

 子供向けな部分もあるが、根幹は誇り高き精神性の話だったと思う。白ではなく、真っ青なドレスにしたのは映画的ないい改変だった。どれほど美しい見た目の女性でも、醜い心の持ち主にあの澄んだ空のようなドレスはきっと似合わない。
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