NAKAYAMAN

シンデレラのNAKAYAMANのレビュー・感想・評価

シンデレラ(2015年製作の映画)
4.1
心の汚れを洗い流してくれるデトックスムービー。
劇薬映画の見過ぎで刺激中毒に陥っている男達にこそ観て欲しい。

アニメはたぶん未見。
想定通り客の大半はカップル。
男一人、ドレスコード無視のピチT無精髭でアウェーに乗り込む。
イントゥザウッズで経験済みなのでこの程度では動じない。
が、右隣に座った彼女連れの男は風邪をひいているらしく物凄い音を立てながら鼻をすすり、咳払いを連発。
もちろんマスクを着用するエチケットなんてない。
徐々に苛立ちが募ってゆく。
暗くて見えやしないのに髪型を結構な頻度で弄り、女とイチャつき、ひそひそ話しまで始める始末。
もう頭の中は映画より「如何にしてこの男を血祭に上げようか」というバイオレンスな妄想で一杯。

しかしフェアリーゴッドマザーが登場すると状況は一変。
魔法によって変化してゆくカボチャ、動物そしてシンデレラの華やかさ、そして幸せに満ち溢れたきらびやかな舞踏会の映像によって心にあった雑念は吹き飛び、ほとんど隣が気にならなくなってゆく。
苛立ちを忘れ美しい映像で心が満たされる。
どうやらビビデバビデブーの魔法は観客にまで影響するらしい。

舞踏会のシーンが終わり、男がまた鼻をすすると私は思い切ってカバンの中から未使用のポケットティッシュを取り出し無言で隣の男に差し出す。
目が合い、うなずくと男は少し笑いながらも素直に受け取る。
もう完全に邪念は消え、そこからは完全に映画の世界に浸ることができた。

エンドロールに入ると男はティッシュで思い切り鼻をかみ、丁寧にお礼を言ってくれた。
なんだ、案外いいやつじゃん。
こうして私の心を占領していた妬み嫉み姉妹と苛立ち継母は怒りによる復讐ではなく、勇気と優しさに導かれて去って行ったのである。

調子に乗った私は己の勇気と優しさを試す新たな試練を与えた。
ダイエット中のため放棄して帰るつもりだったauマンデイ特典の「アイスを無料で貰える権利」を他人に譲ることにしたのである。

子供連れならきっと喜んでくれるだろう。
浅はかな私は劇場ロビーで若いママに話を持ち掛ける。
テンション低めにあっさり断られ、心はガラスの靴のように砕け散る。
鏡を見ろ自分。
プリンスとはかけ離れたその風貌を。
女性に話しかけて良い身分じゃない。
それにここは歌舞伎町。
怪しいにも程がある。
実に賢明な判断ですマダム。

だが本作にかけられた魔法が完全に解けたわけではない。
割れたのは片足分だけ。
私は羞恥心によって心の隅に追いやられたプリンスに喝を入れ、残されたガラスの靴を手に考えた。
同年代の男なら行ける。
これなら新手のナンパとも思われまい。
売店の前にいる大学生グループと思しき集団を見つけた私はその中の一人の男にアイスの話を持ちかけると今度は快く受け入れ、喜んで受け取ってくれた(たぶん)。
彼とそのグループに笑顔で会釈をし、その場を後にする私。

自己満足の偽善によって不審者と思われたかもしれないが、かくして私は自らに課した試練を乗り越えたのである。
隣にプリンセスこそいないものの、紛れもないハッピーエンドを手にした私はガラスの様に澄んだ心で帰路に就いたのであった。
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