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サクラサクのodyssのレビュー・感想・評価

サクラサク(2014年製作の映画)
2.0
【脚本が不自然】

夫婦と子供二人、および祖父という構成の家族に訪れた危機、そして再生。その再生はボケかかっている祖父の過去をたどっての旅によってなされる。・・・というようなお話でしょうね。だから後半はロードムービーとなっている。

でも、脚本が練れていなくて、各人物の態度やその変化に首をかしげる箇所がいくつもありました。だから観客としては、本当の意味で作品の中に降りていくことができないのです。

例えば高校生の長女。彼女は前半はボケかかった祖父にまったく無関心。祖父のことで家庭内がてんやわんやしているのに、マンガを読んだりお菓子を食べたりして全然助けようとしません。自己チューで身勝手な女子高校生、という印象です、前半ではね。

ところが、です。旅が始まると、父親参観日などに多忙で来れない(或いは行きたくないので多忙を理由にしている)父親に代わって祖父が来てくれたという話を始めます。そしてボケた祖父に優しくしてあげる。

変じゃないんですか。彼女には祖父に対する態度を変える理由が見当たらないんです。優しくしてあげるなら前半からそうすべきだし、授業参観に来てくれても祖父に無関心なら要するに徹頭徹尾自己チュー女なわけで、後半だってそうじゃないとおかしい。

妻(南果歩)の設定もそうです。彼女も前半では義父に対してかなり突き放した態度をとっている。義父がボケて粗相をしても自分で始末してはあげなくて、夫が会社から急遽帰宅して世話をするのを傍観しているだけ。

妻が夫に対して冷たくする理由があることは、最初のあたりで描かれています。だから、夫との心理的な距離が大きくなっているし、その延長線上で義父にも冷たい態度をとっているのかな、と私は思いながら見ていたんです。

でも後半を見ると、妻が夫に冷たい態度をとるのは、最初のあたりに描かれた理由からだけではなかったと分かる。そして、同時に家庭から逃げている夫の代役を或る程度義父が果たしていたことも分かってくる。

とすると、妻が義父にああいう冷たい態度をとっている理由が分からなくなる。むしろ、家庭を顧みない夫の代役を義父が果たしているのだから、妻と義父は子供(義父にとっては孫)の話題などを通じて親しくなっているほうが自然でしょう。なのに前半の妻はあくまで義父には冷たい。全然筋が通ってません。

ついでに、部長職にあり近く取締役に、という設定の夫(緒形直人)が、父親の粗相が理由で会社を何度も早引けして帰宅しているのも納得できません。こういう立場にあるサラリーマンはものすごく忙しいのが普通。窓際族ならともかく、取締役目前の人間があんなに私用で会社を早引けできるわけがない。

このように、人物の心理やその変遷、様々な設定に矛盾というか、いい加減でご都合主義なところが目立ち、残念な出来に終わってしまいました。

私は南果歩さんのファンで、この映画もそのために見たようなものですけど、浅い脚本のせいで彼女の真価が発揮されていなかった。果歩さんのためにも制作側を叱咤したい気分です。
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