三樹夫

フォックスキャッチャーの三樹夫のレビュー・感想・評価

フォックスキャッチャー(2014年製作の映画)
3.8
レスラー弟、レスラー兄、金持ちのおっさんの三人をメインに話が進む。もっと正確に言えばレスラー弟と金持ちのおっさんの暗黒空虚コンビがメイン。レスラー弟は、人望がありいつも人が周りにいる兄へのコンプレックスで空虚な状態、満たされない。このレスラー弟と通じるのが金持ちのおっさんで、このおっさんも満たされていない。その満たされなさを金メダルや愛国心で埋めようとするが、それらは満たしてくれるわけではない。『桐島、部活やめるってよ』の宏樹がさらに空虚になって末期状態になったようなおっさん(宏樹のあり得るかもしれない未来)。登場時よりこのおっさんヤバい奴だろという緊張感でピリついていおり、観終わったときには(心地よいとも言える)疲労感が残る。ただその二人とは対照的にレスラー兄は人望もあって愛する家族もいて満たされていてという、そんな人物が、特にヤバいおっさんの前に現れてしまったが故の悲劇(呼んだのは金持ちのおっさんなわけだけど)。自分の羨ましいものを手に入れている様を眼前に叩きつけられ、目は虚になるばかり。『桐島、部活やめるってよ』の桐島がいなくなって右往左往している人たちに寄り添う形でフォーカスがあてられたような感じで、なんかすげー空虚なんですけど、満たされないんですけど、前田や野球部キャプテンみたいにはなれないんですけどと、どんどん病んでいく感じ。

この映画の白眉は何と言っても金持ちのおっさんで、映画のヤバいおっさんウォッチャーにはマストな作品となっている。どんだけ金持ってようが、メダルがあろうが、愛国心だの何だのと言おうが、そんなものは空虚な心をこれっぽっちも満たすものではない。練習前のミーティングでこれ見よがしにリーダーシップを見せようとするが白けた感じ(しかもあそこにいる全員があえて口は挟まないという優しさがなお辛い)、自分を褒めたたえた虚飾のビデオを見て、心の奥底でさらに虚しくなっていく様など、悲劇と狂気が絶妙にブレンドされたヤバいおっさんの存在感が強烈過ぎて、レスラー弟の影が薄く感じる。とどのつまりは、目の死んだおっさんが出てくる映画は面白いということか。
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