がぶりえる

フォックスキャッチャーのがぶりえるのレビュー・感想・評価

フォックスキャッチャー(2014年製作の映画)
4.6
胸が締め付けられる  

デュポンは悲しい男だと思った。
彼の生き方や考え方が観ていて本当に辛い。ひたすら自己顕示欲を抱え続け、虚栄を張ることに取り憑かれた寂しい男。誰かに認められたい、仲間に囲まれたい、親を見返してやりたい一心になっているが、自分の望みを叶える方法が分からないから全部お金で解決。人とどう上手く接していいかも教わらずに育ってきた。だからこそ、そんな自分の弱さを認めざるを得ない状況にさせたデイブに対しての激しい嫉妬が生まれた。

誰の中にも「デュポン性」があるのだと思う。自分の欲しい物を全部持っている者が目の前に現れ、自分の道に侵入してきた時に多くの人が嫉妬心を抱くだろう。越えられない存在を前にした時、人は自分を保つためにその邪魔な存在を排除しようとする。もしくは自分を大きく見せようとする。そんな人間の心の闇や欲望を映し出している作品だと思う。自分の中にも「デュポン性」があることを自覚させられたし、この映画の持つ説得力にやられた。

もちろん人を殺めた人間に同情の余地などない。しかし、昨日まで知りもしなかった人間の気持ちを理解できたり、作中のキャラクターと共鳴できることこそ真の映画体験だと思う(あくまで個人の意見ですが…)。ましてや殺人犯と自分とがリンクすることなど映画を通してでないと体感できないことだろう。なぜなら、世の中に発せられる真実は結果だけを伝えているからだ。それに対して別の角度から切り込むことで、新たな解釈を見出だすことこそこの手の映画が目指す所だと思う。この映画にはそれがあるから素晴らしい。