三樹夫

STAND BY ME ドラえもんの三樹夫のレビュー・感想・評価

STAND BY ME ドラえもん(2014年製作の映画)
2.0
感動エクスプロイテーション映画。または感動ポルノといってもいいかもしれない心底下品な作品。ドラ泣きはこの世で一番醜い言葉だ。ゼイリブのグラサンをかけて見ればOBEYと出るでだろう。泣けるよねじゃなくて、さあお前ら泣けという意図がぷんぷんして最悪。
成し遂げプログラムは正気の沙汰じゃない。インタビューで監督はドラえもんの葛藤をしっかり描け、のび太との出会い別れを効果的に表現できる便利な装置と言っているが、ただの奴隷装置でしかなく正気を疑う。監督が物語を作るうえでは便利だったんでしょうねという感想しかでてこん。ドラえもんが未来に帰る理由付けと、最初はこの装置作動させなければならないぐらいのび太のこと嫌だったの強調、後半はそんな状態からここまで友情を育み未来に帰りたくないのに帰らねばならないの引き裂き機能として便利だと思ったんだろうが、それはこんなもんを設定しなければ自分はドラえもんとのび太の友情は描けないってことでしかない。実力不足宣言みたいなもん。よくこんなもん考えて、しかもそれをのうのうとインタビューで答えられるなと思う。

とにかく泣かせることしか頭にないいやらしさ。大げさでいかにもここ泣くことですよと感動的なBGM流してキャラがドバドバ涙流せば観客は泣くって思ってるんだろう。これはテレビのワイプと一緒だ。タレントがわざとらしい邪魔なリアクションとってれば視聴者もそいつらと同じ気持ちになると思ってる。それとここの場面はこういうリアクションをとるのが正解ですという押しつけの説明でもある。んなもん鬱陶しいだけで、ただ反感しかなく辟易させられる。
観客は単純に作中のキャラが泣いてるからという理由で本当に感動するわけではない。観客が感動するのは同調するからこそ感動するわけで、お手軽にBGM流してキャラが涙流しときゃそれでいいと思うのは上っ面で薄っぺらいのもいいとこだ。そんなもんで同調などしない。そしてこの映画には上っ面と薄っぺらさしかない。
「届けー」とのび太が叫ぶシーンは見せ場とか思ってたのかな、あんなもんで。うすら寒かった。キャラに叫ばせれば見せ場になると思ったら大間違いだろう。あのシーンのび太はほんとに叫んでるだけで何もしていない。それに「雪山のロマンス」って元々コメディだし。他にものび太が幸せとドラえもんに言うシーンは心情をセリフで説明している。どんだけ邦画の悪いところがぶち込まれてんだよと悲しくなる。しかも畳み掛けるようにプログラム作動でドラえもんが帰らなければならないという酷い展開へ突入する。異常に無理矢理感が出てると思うが、この一連の流れの酷さは。

この映画を観るくらいならのぶ代版ドラえもんの劇場版を観るべきだ。それか原作を買ったほうがいい。ちょうど大全集もでているし。この映画で出てきた虫スカンのエピソード(単行本だと32巻の「しずちゃんさようなら」)は静香ちゃんってホントいい子だなってなる。この映画の雪山でのび太と静香ちゃんが遭難するシーンの元の「雪山のロマンス」(単行本20巻)は原作で唯一静香ちゃんが、そばについててあげないとあぶなくて見てられないから、とのび太と結婚する理由を述べているが、これはコメディの中の一コマとして捉えたらよいだろう。実際何で静香ちゃんはのび太と結婚したかは推察するしかないが、のび太さんって普段はグズでノロマだけど本当は優しくて頼りがいがあるのねという場面が何回かあって(『ドラえもん のび太と鉄人兵団』、「はこ庭スキー場」、「ぼくをタスケロン等」)、それの積み重ねだろう。それと結婚前夜の静香パパの有名なセリフがそうじゃないかと思われる。
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