櫻イミト

トゥルー・クライム殺人事件の櫻イミトのレビュー・感想・評価

4.0
「カサブランカ」(1942)のマイケル・カーティス監督によるフィルム・ノワールの知られざる傑作。原題「THE UNSUSPECTED(非容疑者)」。“トゥルー・クライム”とは“実話犯罪モノ”の意。

【あらすじ】
ニューヨーク郊外の夜。実話ミステリーラジオ番組「アンサスペクテッド」の人気司会者ビクター(クロード・レインズ)の邸宅で、秘書ロズリンが何者かに殺される。その死は偽装され自殺として報告された・・・。ビクターは二人の姪を引き取り暮らしていたが、先月そのうちの一人マチルダが旅先の海難事故で亡くなったばかりだった。そこで、もう一人の姪アルテアが彼を元気付けようと誕生パーティーを開く。その会場に、亡くなったマチルダの夫と名乗る富豪スティーブン・ハワードが訪れアルテアを詰問し始める。アルテアの夫オリバーは元々はマチルダの恋人だったのだ。不穏な動きの中、何とマチルダが生存していたとの報せが届く。。。

閣下殿からのご紹介で鑑賞。

終盤の盛り上がりに向けて映像シナリオ共に巧みに計算された、驚くべき傑作ミステリーだった。ただし人間関係が複雑なので最初の30分ほどは話が呑み込みにくく、それが本作が埋もれている理由かもしれない。

冒頭の殺人シーンは影を強調した撮影演出が見事。続いてのラジオ放送現場も目を引くもので引き込まれる。続くパーティーシーンで謎の男ハワードが現れ、前半は彼の正体探りと悪女アルテアに見え隠れする企みが話を引っ張っていく。ここで難だったのが、冒頭に死んだロズリンについて殆ど受けずに話が進み、過去に死んだマチルダに話がスイッチしてしまうこと。これが序盤に感じられるややこしさの原因になっていると思われる。(冒頭女性の殺害動機は曖昧なまま終幕する)。

しかしそこから後半に向けてかけられる幾重ものツイストが実に鮮やかで、久々に予想を裏切られる快感を味わった。ミステリーの魅力と共に、クライマックスのカーチェイスも非常に迫力があり映画を盛り上げていた。

そして記しておくべき本作の特徴のひとつが、冒頭で犯人の顔をさらしていること。仰角で帽子をかぶり眉間にしわを寄せているので、自分には後に出てくる登場人物の誰だったのか認識できなかったが、アメリカの映画ファンなら認識できるのかも。だとしたらその演出意図は何が狙いだったのか?鑑賞直後の現時点では答えが思いつかない。

冒頭の黒皮手袋、複雑な人間関係と非情な犯人像には後のジャッロ映画への早すぎる萌芽が感じられた。今後、再評価が高まりそうな“忘れられた傑作”の代表格と言える。
櫻イミト

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