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イヴ・サンローランのnaomiのレビュー・感想・評価

イヴ・サンローラン(2014年製作の映画)
4.6
洋服は、温度調節や外的衝撃などの危険から身を守る、生きるための基本的な役割を持っているが、それだけなのか?と言われたらもちろん”違う”と答える人が大半だ。みんなそれぞれ自分好みのデザイン、テイスト、ブランドがあって、ファッションによって自分を表現するということが大きな意味を成している。
モード界の巨匠と呼ばれるイヴ・サンローランもコレクションを完成させることによって、自身の生きる意味を見出す人であった。その情熱から生まれる苦痛、孤独や悲しみは、私たちの想像をはるかに越えたものである。

ハイファッションは不景気と言われる時代でも、根強い人気が変わることはない。自分へのご褒美や記念として、または、プレゼントなど手に入れる方法は違っても多くの世代の憧れであることは事実だ。華やかなアイテムをただ選ぶのではなく、この映画のような裏にあるストーリーを知ることは、ブランドの持つ力や意味を分かるようになることに繋がるのではないかと思う。

映画の中で印象的だったのは、サンローランの物語が公私に渡るパートナーだったピエール・ベルジェとの関係を濃く打ち出して見せているということ。出会いからたちまち恋に落ちた2人は、生涯のパートナーとして50年以上にわたって連れ添うことになる。ゲイの人権は認められなかった時代から付き合い始めた2人にはきっと波風が立った日もあったはずだ。それでも堂々と、天才が自分のことでせわしなく動き回る陰で、それ以外の仕事を一手に引き受けたベルジェ。やがて世界に2人の関係を認めさせ、モード界を大きく変えていく。仕事とプライベートな人生、その両方をプロデュースしたベルジェには、父親のような懐の深さ、母親のような厳しさ、兄のような温かさがある。どんなに激しくぶつかり合っても、極度の人見知りだったサンローランが唯一、心を許し、理解し、愛し、数々の革命的なコレクションを迎えることができたのは、彼の存在があってこそだと思う。ショーの後、小刻みに震えるサンローランに「行っておいで」と観客への挨拶にベルジェが送り出す最後のシーンに、私は胸が熱くなり、体の中からジワジワと込み上げてぼーっとさせられるような感動を味わった。彼らが深く深く愛し合っていた事実が何よりも眩しく見えた。

今では定番のマリンスタイルやピーコート、サファリルック、シースルー、女性のパンツルックはサンローランが提案したスタイルだったこと、発表された当時はとても物議をかもしだしたことも知って、現在のデザイナー、エディ・スリマンのコレクション(グランジスタイル)の批評と似ていると感じた。革命家はいつの時代も批判の的なんですね…。
いつかのファッション通信で日本のインタビューに答えるサンローランを思い出した。「あなたにとってファッションとは何ですか?」シャイな彼が数秒の沈黙から出した一言、「It's my heart.」この作品を観終わった今、その答えがパズルのピースをはめていくような感覚から鳥肌が止まらない。

映画の内容とは関係ないですが、自分がこれから手にとるであろうハイファッションアイテムが、スタイリングでのバランスの取り方、抜け感の作り方、上品さや女らしさなど、インスピレーションを導き出し、”自分のもの”にできるように歳を重ねたい!今は背伸びした本物であったとしても、それが似合う自分になっていけばいい。私にとっては、そんな気持ちにもさせてくれる素晴らしい作品でした。 この映画との出会いに感謝です。
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