らいち

ゴーン・ガールのらいちのレビュー・感想・評価

ゴーン・ガール(2014年製作の映画)
5.0
フィンチャーの新作「ゴーン・ガール」に完全にノックアウトされた。
ミズーリ州に2人で暮らす夫婦の奥さんが、5年目の結婚記念日の日に突然失踪するという話。

本作はネタバレ厳禁な映画だ。原作を知らない人にとっては予告編以上の情報は不要だろう。
奥さんの失踪後、一緒に住む旦那に殺害の容疑がかけられる、そこまでは予告編から察する展開だ。そのテの事件はよく聞く話であり、正直、鑑賞意欲を掻き立てるほどではない。世界的ベストセラーの映画化と言うが、あのフィンチャーが監督するテーマか?と懐疑的だったが、トンデモなかった。

あっという間の150分。まるでジェットコースターに乗ったような気分。観る者の余韻すら断つほどの早い展開に、いつしか吞みこまれている自分がいる。
人間の恥部と闇、結婚というミステリー、集団意識とそれに迎合するメディア・・・アメリカへの自虐的皮肉も多く散りばめられ、ベースはアメリカらしい価値観に溢れているものの、 傍観者として観ることができない 引力がある。

この映画をみて強く感じたのは人間が持つ多面性だ。
人は日々いろんな人間を演じてみせる。私生活の顔や仕事の顔・・・家族同士や友達同士であっても、すべての自分を共有、理解し合えている人はどれだけいるだろう。もしかすると本人ですら、本当の自分が、どの顔なのかもわからないかもしれない。
本作は、人間が持つその複雑な多面性を「結婚」というテーマを切り口に描いている。赤の他人が愛情によって結ばれるその関係は、実はとってもミステリアスなものであるということだ。

ここまでは原作、脚本の力によるものであるが、映像の世界に観る側を引っ張り込む力はフィンチャーの演出力がなせる業だろう。矢継ぎ早に繰り出されるセリフの応酬。互いの感情が激しくせめぎ合い、まるでノーガードのボクシングの試合を観ているようだ。いつKOされるかわからないスリルに、目を離すことができない。そのスピードは中盤から一気に加速し、怒濤のクライマックスに突っ込んでいく。フィンチャーは凄いストーリーテラーだ。圧巻の一言。

そして、主演のベン・アフレックとロザムンド・パイクのパフォーマンスが面白さに輪をかける。ダサくてどこか憎めないベンアフの個性が本作にハマっている。望まぬ運命に必死に悪足掻きするシーンは滑稽だけでなく、凡人の主張として深い味わいを残す。ロザムンド・パイクは本作で圧倒的な存在感を示す。彼女の支配力が本作を特別なものにしていることは間違いない。これまで派手とはいえないながら地道にキャリアを延ばしてきた彼女の潜在能力が、フィンチャーの手により一気に開花した印象。彼女の名演(怪演)が今でも残像として脳裏をよぎる。主演女優のオスカー賞レースはジュリアン・ムーアが最有力っぽいが、彼女にも善戦してほしい。それにしてもフィンチャーはこれで4作連続で主演部門へのノミネート俳優を輩出することになる。凄いなー。
やり手で資本主義臭い弁護士を演じたタイラー・ペリーや、気持ち悪さを絶妙に醸し出す元彼のニール・パトリック・ハリスも良い。

物語がたどり着く先は、真実を越えたところにある。その結末を迎えて、戦慄とともに不思議な爽快感を感じた。。。なんだろ、この感覚。もう1回観たい。

【90点】
らいち

らいち