にいにい

天才スピヴェットのにいにいのレビュー・感想・評価

天才スピヴェット(2013年製作の映画)
4.0
お洒落映画の代表格として名前を聞くジャン=ピエール・ジュネ作品を観るのは初だったが、「…なるほど、これはお洒落だ」と唸るような色彩豊かでアイデア光る絵本のような一本だった。

主人公のスピヴェットは10歳の少年で紛れもない天才である。永久機関を発明し、スミソニアン学術協会から表彰を受けることとなる。そんな彼の旅路と可笑しな家族を暖かく見つめたお話だが、何と言っても作品を通してのアイデア溢れる演出が魅力的である。しかも、ただお洒落なだけでない。本作での演出は天才かつまだ"子ども"であるスピヴェットの頭の中を覗いているかのような気にさせ、ワクワクさせられる。ただの天才でなく、子どもであることが肝である。世の中の何にでも興味を持ち、彩豊かに世界を切り取れる子どもが主人公だからこそ、この絵本のような世界観が馴染む。

アメリカの田舎の典型のような現代のカウボーイの父親に昆虫学者として奇天烈な母親、女優を夢見る姉に父親の要素を受け継いだ双子の弟。大自然に囲まれ暮らす一家に訪れた突然の不幸、弟の事故死が天才スピヴェットに影を落とす。子供というのは親からの愛情や子供間の優劣等を敏感に察知する生き物だ。元から弟こそ父の後継者として愛されており、自分の居場所はここにないと感じていたであろうスピヴェットにとって、弟の事故に居合わせ、きっかけとなったという自責の念はよりその気持ちを強くさせた。

そして旅立つスピヴェット。故郷を離れるにつれ家族を、家を恋しく思うのは旅立つ子供につきものだ。一度家に電話をかけようと思うも我慢する姿がいじらしい。旅路で出会う人々も印象的だ。松の木の話をしてくれたおじちゃんに笑いをこらえるタクシー運転手も良かった。そして、一番の見せ場であるスピヴェットのスピーチのシーンに心打たれ、家族との再会も良かった。

スピヴェットを演じたカイル君の可愛さが光り、母親役のヘレナさんを中心とした大人な俳優陣が暖かく支える。子どもの自由さを奪うのはいつだって大人である。本作の大人達(監督も含め)は天才少年の自由な世界を邪魔することなく旅立たせた。そして、弟の死に囚われた子供を暖かく包み込んだ。子供の自由な世界とそれを見守る粋な大人達の世界が噛みあった良作です。
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