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絶狼 ZERO BLACK BLOOD 黒ノ章のYU@Kのレビュー・感想・評価

絶狼 ZERO BLACK BLOOD 黒ノ章(2014年製作の映画)
3.7
牙狼のよきライバルであり戦友・絶狼が主役のシリーズ。ホラーと人間の共存、という理想郷を作らんとする新手のホラーとの敵対を通し、絶狼、ひいては涼邑零の魅力がひたすらに炸裂する。
脚本はヒーロー特撮ではお馴染みの小林靖子。彼女がお得意とする「敵側の理想という美学」「滲むやり切れなさ」「アクションシーンにおけるワンアイデア」等は、牙狼の世界観でも健在。一見無理に見える敵側の共存理論もアリなんじゃないかと思わされる程。
作風の大きな特徴として、ひたすらに涼邑零をかっこよく描くというのがポイント。脈絡もなく零のバイクアクションが始まっても、突然上半身裸の訓練シーンがあっても、かっこいいからそれで良し!!とにかく涼邑零の魅力を多方面から切り取って映像にしている。
正直序盤はアクション面で物足りなさを感じて観ていて、通常の牙狼シリーズに比べ予算とか諸々あるのだろうな...と思っていたら、何のことはない最終話のラストアクションが凄かった。ここに予算を寄せていたのか!CGもエフェクトも演出も素晴らしかった。ボリューム盛り沢山で、これで決めか!?と思ってもまだ続く!まだまだ続く!イヤッホー!!って感じだった。敵の治癒能力を逆手に取って隙をつく(しかもその方法がドラマ的にも意味を持つ)辺りは、いかにも小林脚本的でニヤニヤ。
ホラーと人間の共存について、敵側の理論の方がもしかして正しい?、というレベルまで描いていたのは良かったものの、もうちょっとそれにじんわりと無理が出てきたり翻弄される存在があったり、"理想の脆弱性"も観たかったかも。それは6話じゃ足りないけどね。テーマの重さ・深さ的に6話でやるには勿体無い部分もあって、結局は零が「俺は人を裁く存在ではない」という決断に帰着したのは、王道ながらも個人的にはもう一歩踏み込んでも良かったかな、と。とはいえ、そもそも零という存在に何かを悩ませるのは結構な難題。そもそも零という存在は何かに真剣に悩んだり熱くなったりするタイプではなく、飄々として掴み所がないやんちゃ優男クールなキャラクターが魅力。恋人の因縁も消化してしまってるので、彼に何かを背負わせるのは作劇的に結構難しいと思うんだよね。零のキャラクターを考えた時に、"背負わせる"という部分は味方のサブキャラクターに、"ドラマの面白さ"は敵の理想論に配置して、零をひたすらに己の魅力を振りまき発揮するという最も贅沢で美味しいポジションにしたのは、ある意味大正解だったとも思う。これがもし1クールあったら零にもそれなりの苦難と絶望と業が与えられたかもしれないが、今回は6話という限られた時間だったので、「どんな過去を背負った味方や理想を掲げる敵がいても、ブレずに飄々として時に熱い涼邑零」という絶妙なバランスだったのかな。
最終話のラストバトル、決め技の連続で更に舞台を教会に移した後の、あの敵を倒した時のラストカット。絶狼が紛れもない「戦士」で、この物語の唯一無二の主人公だという事がガツンと脳に叩き込まれる美しくもかっこいいあのシーン。あそこで300点はあった。
涼邑零というキャラクターが好きな人は絶対に観るべきだし、牙狼シリーズの一つとしても、"ホラーと人間の共存"という新しいテーマにしっかり斬り込んでいる作風は見逃せないと思う。絶狼のメインテーマがちゃんとあの和風の尺八(?)サウンドなのが良いね。

(前後編総括レビュー)
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