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アマデウスのutakoのネタバレレビュー・内容・結末

アマデウス(1984年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

誰しも一度は耳にしているモーツァルトの名曲「交響曲第25番」に乗せ、幾度目かの自殺を図った老人のシーンで衝撃的に物語が始まる。

包帯で処置され、精神病棟で神父に懺悔を始める車椅子に乗ったその老人の名はサリエリ。ルイ14世時代、フランス王朝の元宮廷音楽家だった男。
かつて華々しい地位で活躍していた彼が語るのは、神への冒涜…未だ苛まれ続ける妬みの元凶、今は亡きヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト暗殺の一部始終だった。。

今作は、サリエリの回想としてモーツァルトとの過去が語られていきます。

一度聞いた楽曲を譜面なしに完コピできる…幼少期時代から類い稀ない才能で有名となり、『神童』と呼ばれたモーツァルト。彼が青年となり、ウィーンからフランスへ宮廷音楽家として迎えられる。

始めこそ歓迎されますが、音楽の才はあってもどこかボンボン感があり幼稚で、皇帝はじめ上役との付き合い方も下手なら、金の使い方も下手。女癖も悪く派手好きで生活は困窮の一途を辿る。音楽の天才的才能とは一転、だらしのない男として描かれるモーツァルト。
そんな夫を見兼ねた妻コンスタンツィは、仕事の推薦を煽るべく、正に活躍中のサリエリに、家から持ち出したモーツァルトの楽譜を見せたことから事が動き出します。

写しでもなく直しのない一発で書かれた楽譜を見て、サリエリは驚愕し打ちのめされるんですね。頭の中で完璧に楽曲が完成している証であり、常人に成せる技ではないのです。どう足掻いても勝目のない完全なる敗北を突きつけられた瞬間…。

十字架の前でサリエリは問います。
なぜこんな男に素晴らしい音楽の才能を与えたのか。なぜ私ではないのか。

恵まれない環境で神に祈りながら、幼少期から音楽だけに身を捧げてきたサリエリだからこそ、モーツァルトの音楽家としての才能を誰よりも称賛せざるを得ない皮肉。
『音楽家としての才能』ではなく『モーツァルトの最大の理解者』としての才能を与えた神への信仰をサリエリは捨てます。

それから、表向きはモーツァルトの最大の理解者というかたちを保ちながら、職も収入も奪い、弱ってゆくモーツァルトのすぐ側で彼を精神的に追い込んで行きます。
匿名で作曲の依頼をし、衰弱していくモーツァルトに強引に楽曲を書かせるサリエリのビジュアルはもう死神の様相。

モーツァルトの名曲をふんだんに使いテンポ良く展開していく後半、目が離せません。

依頼した曲はまさに、モーツァルト自身の『レクイエム』となり、クライマックスは物悲しい壮大な名曲に乗せ、偉大な音楽家の最期を印象深く描きます。


サリエリ自身の曲が忘れ去られた今、生前理解されずとも、死して永遠に愛され続けるモーツァルトの楽曲。
生きながらえるサリエリは、己を『凡庸の神』と精神病棟の患者たちに説きながら、院内車椅子を押されるシーンは、ただただ物悲しさいっぱい。

初めて観たのは中学生時代。モーツァルトの名曲たちと共に画面に広がるバロック様式の華々しさはアカデミー賞14部門ノミネートも納得で夢中になりました。
華美なビジュアルやバラエティ豊かな音楽とは裏腹に、『凡庸』と『天才』という、身近にあるテーマをドロドロな恨み節で引き込んでいく巧みなストーリー構成も圧巻です。
けっして楽しい内容ではないんですが、格調高く普遍的テーマで見応えがあり、今でも定期的に観てしまう大好きな作品。

(購入Blu-ray)
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