神代辰巳監督の軟体的な語り口と、エリート街道を歩んでいた男があるトラブルをきっかけに自分の中にある別の性に目覚めていくというジェンダーなコミカルドラマが妙な具合にマッチして奇妙だけど馬鹿馬鹿しくて笑える喜劇に。
主役三人の濃い演技もいいのだけれど、神代監督特有の役者にひたすら変な動きをさせるという演出が過剰になることなく喜劇効果を更に高めている。登場人物はみな台詞を話すとすぐに相手に攻撃するという激しいテンポもそうだし、後半のケーキの使い方なんて『家族ゲーム』みたいだけれどそれより激しくもはやアクションになっていて爆笑。
ロマンポルノのSM女王として知られる谷ナオミの普通の女の子(やさぐれているけど)っぷりがキュート、そしてそんな彼女が泣き叫びながらSMプレイをやらされるのが笑える。
藤圭子の『夢は夜ひらく』などの歌謡曲がいつしか新たな性に目覚める主人公のドラマと絡み、主人公が歌うベルばらのテーマソングへと結び付いて独自のジェンダーの道を歩む彼(彼女?)の決意表明になっていく演出が素晴らしい。そして何者も畏れない人物が君臨するラストへ。
ちなみに主人公を犯す情けないやくざを遠藤征慈が好演しているが、彼が歌う『あんたがたどこさ』が結構いい歌声なので思わず聞き惚れてしまう。