MasaichiYaguchi

薄氷の殺人のMasaichiYaguchiのレビュー・感想・評価

薄氷の殺人(2014年製作の映画)
3.6
2014年・第64回ベルリン国際映画祭で最高賞の金熊賞と男優賞をダブル受賞したクライムサスペンスは、中国北部の地方都市を舞台に、元刑事の男が、1997年と2004年という5年間の時を置いて発生した未解決の猟奇バラバラ殺人事件の真相に迫っていく姿をスリリングかつリアルに描く。
リャオ・ファン演じるジャンは刑事だったが、ある出来事で辞職して今ではしがない警備員。
発生した一連の事件に接点を持つウーは美しいが薄幸で、そこが男たちを惹きつけて止まない女。
内面に複雑な事情を抱え込んだこの女を、台湾女優のグイ・ルンメイが繊細に演じている。
この5年越しの事件は何度か劇的な展開を見せ、主人公たちの運命を変えていく。
そして我々も二転三転する展開を観ていくなかで映画に鏤められた伏線が繋がり、事件の真相が徐々に解き明かされていく。
本作はハードボイルドタッチのクライム・サスペンスだが、別の視点から見れば愛の物語だと思う。
ただその愛は不器用で歪んでいて、そして少し苦い。
灰色の雲が垂れこめ、寒さと寂寥感で閉ざされた冬の重苦しさを吹き飛ばすように、ラストで「白昼の花火」が幾つも打ち上げられる。
その花火は、功名心と愛との板挟みで葛藤を抱える主人公や、不幸な出来事で闇に縛り付けられている彼女の心を解き放つエールのように見える。