垂直落下式サミング

女子刑務所 case 優里の垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

女子刑務所 case 優里(2012年製作の映画)
5.0
ドライブデート中に交通事故を起こした代議士の父を持つ彼氏を庇って刑務所に収監された女性が、刑務所の地獄のリンチに耐える姿を描く。代議士は、近親者の不祥事を揉み消すために裏から手を回し、刑務所と結託して彼女に罪を着せたまま闇に葬ろうとするが、すべてを失った女は自分を虐げたものに立ち向かう覚悟を決める。昨今、問題になっている上級国民が権力を振りかざしてくる系の官能バイオレンス。
まず、みていると思っていたほど画面が安っぽくないというか、むしろ絵作りがリッチで編集がお洒落れ。想像していた内容とはおよそ不釣り合いな、とても映画が上手い人たちが作ってる感が漂う。
まず、オープニングがすごくいい。70年代の東映やくざ作品みたいな罪状を読み上げるナレーション、雑居房の壁に映る影を使ってリンチを間接的に表現する新入りいじめ、そこから主人公はなぜ収監されるにいたったのか、過去の記憶にジャンプカットする。軽快に移行するシークエンスに感心してしまった。
やたら過去の回想が入り込むのは普通の映画だと物語が停滞して悪印象なのだけど、刑務所もの映画を一本道のストーリーにしてしまうと、捕まって収監されて虐められて…と、とても平淡な物語になってしまうので、素材不足の低予算が間を持たせるためにはプラスに働いている。
むしろ、これが映像的にはいい効果を生んでいて、悲惨な場面から途端に幸せな瞬間が刹那的にカットバックされることで、地獄のような状況にさらされている人が必死に現実から目を背けて逃避しているような、切羽詰まった心象を表現しているようだった。
音楽や効果音もハイセンス。古きよき時代の日本映画っぽくて、怪談のようだったり、時代劇のようだったり、ピンキーポルノ風だったりと、音色が時代に逆行していて好きだ。因みに、矢追純一のUFOスペシャルの音楽はそのまんま使われている。
照明も構図も、この手の低予算エロ映画にしては凝り過ぎ。光が青かったり、黄色かったり、赤かったり、白かったり、単純にみていて目がたのしい。
主人公をいじめる雑居房の囚人たちも好き。しっかりとした嫌がらせ。しっかりとした暴行。ちゃんとリンチに感情がある。
僕は常日頃から、女囚ものは誇張した暴力表現を削ぎ落として、もっと人の世の苦しみのほうをリアルに描写してほしいと思っていた。
本作は、その場では虐待が常態化しているような雰囲気であり、鼻につく誇張がない。ジャンル全体に感じていた不満点を本作が解消してくれている。
主人公を毎日いじめまくっているうちに、反応が面白くなくなってきて飽きてモチベーションが下がってしまうあたりがまさしく人間らしさだし、この空気感が物語の閉塞した時間表現にもなっている。
やたらイチャイチャする悪役親子のふざけたコメディレリーフっぷりも、なぜか嫌みじゃない。そのまんまあらすじを書き出したら、胸くそ悪い陰惨な話なんだから、エンターテイメントはこのくらいでいいんだよ。
そして、追い詰められていく主人公を演じきった水樹りさ。普通のドラマ部分はもちろん、セックスシーンもバイオレンスシーンも、バッチリこなしてしまう。これが初主演なのか。顔面のアップだけでも鑑賞に堪えるし、その目線でこちら側に悲愴を訴えることができる。相当なポテンシャル。あまり映画と接点がないのがもったいない。
賽の河原のタルタロスを抜け出した囚人は、女の負を一手に背負う集合体となり、不感症の街並みをゆく。心の死んだ女の歩みには、女囚さそりが宿る!糞男はめっためたにやっつけろ!
これは、もしかしてもしかすると、僕が望んでいた傑作なのでは?
小さな映画こそ、制約のなかでの遊び心を忘れないでいてほしい。非メジャー製作はこうでなくてはと思える作品。