社会主義時代(1945―1989)のポーランドでは、公安局が年間数千万通の手紙を非合法に開封し、検閲していた。本作は、40年以上にわたって実際に検閲されたさまざまな内容の手紙と、当時の人々の生活を撮影した記録映像で構成され、厳しい社会統制下におけるポーランド庶民の心情を見事に描いている。 紹介される手紙は、実際に投函されて、検閲の対象になったもので、あえて著名人ではなく市井の人々の手紙が選ばれており、内務省が検察官に発した指令書も朗読されて、当時の閉塞した監視社会が想像される。映像は、手紙の内容を損ねないように、膨大なアーカイブ資料のなかから細心の注意をはらって選ばれたものだ。なお検閲の作業風景のみ、元検察官の証言と文献によって緻密に再現された映像である。ドルィガス監督はこの1時間弱の作品に、延べ5年を費やした。