YukariObana

イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密のYukariObanaのレビュー・感想・評価

3.9
悲惨な戦争映画は、まさに今起こっている戦争を想起してしまうという恐怖が強くどうしても見ることができないでいる中、アマプラで選択した映画。
とはいえ、これも戦争の話。
一人の天才の波乱の人生を描く物語でも、「普通でない」ことの苦しみ・そして価値や意味、この時代の同性愛者の苦しみを描く物語でもあるし……。

エニグマの解読はたくさんの人を救っただろうけれど、それを実現するために同時にたくさんの人を見殺しにせざるを得なかった。その取捨選択を統計的に決定しようという話の中で、ふと見やった窓の外に怪我をした兵隊、足を失った兵隊の姿。一瞬、言葉を失うジョーンの表情に、考えるものがありました。
彼らは彼らで必死に戦っているけれど、人間が人間に無残に殺されていくことを、どうやっても止められない苦悶を見た気がして。

今、まさに100年も近くも過去に舞い戻っているような世界で、言いようもない地獄や苦しみの中に同じ地球で暮らす人間が立たされていて、
そんな中私は今はまだ平和な日本でコーヒーを飲みながらこの映画を観ながら、自分が生きられる人生を生きているだけだけれど、
きっと私たちの目の前にもこの窓はあって、
そこには死んでしまった人も、足を失った兵士もいるんだと、
そう思うと苦しくて仕方がない。

戦争に関しても、「普通でない」ということに関しても、同性愛に関しても、なんでこれを遠い過去の苦しみだと、そんな時代もあったんだね、と今言えないんだろう。
そればかり考えて、辛い気持ちで映画を見終えました。

実在したアラン・チューリングがどんな苦しみの中で人生を終えたとしても、
決して孤独ではなかったと信じたいし、
彼の人生には確かに価値がある。
日々コンピュータを使い生きる私の人生や仕事、日常も彼の功績の上にあるんだな。
YukariObana

YukariObana