このレビューはネタバレを含みます
難攻不落とされていたエニグマを解読し、AIの父と呼ばれた人物の物語。
チューリングと第二次世界大戦中の時代背景が鮮明に描かれており、映像化することによって当時のチューリングに対する残酷なまでの仕打ちが痛い程伝わってくる。
この映画はセリフの言葉選びが秀勉で、言い方ひとつでこんなに印象が変わるのかという表現がたくさんあった。
「優れた暗号マシン、エニグマに勝ることが出来るのもまたマシンである。」
プログラミングの技術もない時代に、マシンを作るなど身も蓋もないことを言い出すチューリングはチームで一人孤立していた。
第二次世界大戦の真っ只中、軍人たちは血や涙を流しながら戦っているというのに、いつ完成するかわからない、莫大な費用がかかる解読マシンをつくるなど政府として許されることではなかったのだろう。
だが、解読の糸口を発見し、チューリングを認めていなかった人達が彼を認めだした時には身震いする程だった。
「時に誰も想像しなかった人物が、誰も想像できなかった偉業を成し遂げる」
ジョーンとの五十一年に戻ってからのやり取りは切なくて虚しく、当時の政府に対する憤りもあり見てられなかった。
同性愛が投獄される程の罪だったという事もこの映画で初めて知った。
天才が無能な権力者から受ける世の中の不条理。同性愛に対する偏見。英雄であれば反社会的行動が許されるのか。当時の社会規範は到底理解できるものではない。
世の中の良識や常識に普遍性という言葉などないと思う。
常識という名の偏見なのだ。
この映画は多角的に深く考えさせられる作品だった。