スキピオ

バンクーバーの朝日のスキピオのレビュー・感想・評価

バンクーバーの朝日(2014年製作の映画)
3.5
"頑張ってもどうしようもないことが多いけど、くじけちゃ駄目だし、泣いてちゃ駄目だし"

90年以上前、我慢した先の豊かな生活を夢見てカナダへ移民した日本人たち。しかし当然有色人種だからと有形無形の差別をされ罵られる。かといって真面目に働けば働くほど、現地民の仕事を奪う形になり一層疎まれ、生活も楽にならない。当時の在カナダ日本人たちの光の見えない生活と鬱屈とした感情を晴らすことができる可能性があったのは、"母国"を知らない移民2世代目が中心の「万年最下位の移民日本人野球チーム」のみ。1世代目のオヤジたちが若者に怒鳴る、「白人に負けるんじゃねえぞ!」「今度は勝ってくれよ!」

「有色人種」頭ではわかっていても日本という恵まれた国柄上、どこか他人事に捉えていた人種差別。日本人も黒人と同じ(近い)目に遭っていたのを映像で観せられるとインパクトが違った。これこそ映画の醍醐味。そこに野球というスポーツがどう絡むか。そしてスポーツとその精神の素晴らしさを改めて知ることができた。

色々言われている野球描写は、スピード感を犠牲にしてでも最近よくあるCGや細かいカット割りに頼ったごまかしの試合描写ではなくちゃんとやっていたのがよかった。これは「現代野球」ではないし、スピード感もむしろ時代とマッチしてたと思う。

ただ体格に劣る日本人が勝てるようになった理由は一応わかるんだけど、強くなる過程とロジックの描写がやや少なくて「突然努力もなしに強くなった」ように見えてしまって説得力に欠けた。

あと「別に差別するカナダ人ばかりじゃないですよー」的な、カナダ人方面への気遣いが過ぎてたかな。まぁ波風立てるのは本意じゃないだろうから仕方ないけど。

撮影、美術、照明ともに邦画としてはかなりクオリティが高く、暗く汚れた日本人居住地の雰囲気をよく再現していて素晴らしかった。

テレビ局の開局○○周年記念作品を「映画」でやるなよと馬鹿にしていたけど、意外にも丁寧で誠実に作られていたのにびっくり、近年指折りの良作邦画の一つだろう。