おるかろん

ビッグ・アイズのおるかろんのレビュー・感想・評価

ビッグ・アイズ(2014年製作の映画)
4.5
【注意! 長いです】


自分の才能を旦那に搾取され続ける女流イラストレーター。

60年代のアメリカはまだ女性の社会進出が一般的ではなく、いくら良い絵を描いても世間に認められる事はまずない。

売れる為には男の存在が必要。

旦那の論法に従わざるを得ない彼女は実の娘にまでこの事実を隠し、鍵をかけたアトリエでひたすら作画に没頭します。

だがしかし!

このまま嘘をつき続けて良いの?イヤ良くない!(#`皿´)

一大決心して真実を暴露!

事態は裁判沙汰へ!結末やいかに!

…とゆー実話を基にしたお話。

思いがけず良かったです。

内向的で人付き合いが下手。だからこそその鬱屈とした感情でもって他にはない作品を産み出すセンスを獲得しているマーガレット。

かたや社交的で八方美人。その実、ウワベだけで中身が伴わないのに一流の画家気取りでいるウォルター。

夫婦であるこの二人の、「ビッグアイズ」と呼ばれる一連の作品の権利を巡るゴタゴタが100分程度の尺でサクッと描かれているのですが、見終わった最初の感想は「ティム・バートンぽくねぇな(-""-;)」とゆーモノでした。

実話を基にしてるってのもあるのでしょうが、どっちかつーと「根暗ファンタジーの旗手」である監督が撮る映画にしては結構「ビジネスもの」な感じがしたんですね。

一応ウォルターも絵描きとしてのキャリアはあると言ってますが、彼は明らかに「商売人」です。

金になるモノに対する嗅覚が抜群に鋭い。

一方マーガレットは良くも悪くも「アーティスト」。

作品に対するプライドは人一倍あるもののアピールが出来ない。

どんなに素晴らしい作品を産み出しても、それを世間にお披露目するプレゼン能力がゼロなのです。

「商売人」と「アーティスト」

コレってもう「水」と「油」なんですよね?

でこの映画のバヤイ、ウォルターも「アーティスト気取り」でいるからややこしい!

嫁の作品をさも自分が描いた様に売り出してTVや新聞に露出しまくり!

マーガレットが気分を害するどころではなくなるのも当然です。

結局、露出が過ぎてバッシングにあってしまい、逆上したウォルターはマーガレットやその娘に当たり散らすとゆー豹変ぷりで自身の空っぽさを露呈してしまう訳ですが、そこまでは「マーガレットかわいそう…早く離婚すれば良いのに…(T-T)」と思ってた僕ァここでちょっとコレって「商売人」にはありがちな感情なんじゃないかと思ってしまったんですね。

本物の「アーティスト」は自分の作った作品が満足のいくものでなければ「破壊」してしまいます。

それが世に出る事を「恥」と感じる訳です。

ところが「商売人」は作品に不出来なトコがあっても、どーにか帳尻を合わせて売りに出す訳です。

ウォルターのバヤイ、自分も「アーティスト」を名乗ってたので作品をけなされて逆上してましたが、その部分を取り除けばウォルターの方が確実に食っていける選択をしてる訳です。

もうウスウス勘づいている方もいらっしゃるでしょうが、僕はウォルターに肩入れしてます_(^^;)ゞ

確かにウォルターはクズ野郎です。

どー言い訳しても取り繕えないファッキン嘘つき野郎です。

全部嘘だと判った時にゃたかが映画なのに「そこまでやるか!」と愕然としたものです!

クリストフ・ヴァルツの名演技もあって、ホント近年稀に見る最低のカス野郎に仕上がっていますだがしかしっ!

ウォルターがいなければ、ビッグアイズがあそこまで売れてなかったとゆーのも事実です。

そこんとこ公平に描いていますねこの作品は。

明らかに下心で話しかけてきてる男性客に対して数霊術の講釈を長々としてしまうマーガレットでは作品を売るどころか個展を開く事も無理だったでしょう。

空気読めよっ!(#`皿´)

イヤその前に先ず絵を売れよっ!(#`皿´)

ヤキモキします。

その点、ウォルターは抜け目なしです。

1枚何百ドルもして売れない絵よりも、そのコピーを大量に刷って大量に安く売りさばいて稼ぎにいく。

プライドとか体裁とかでは飯を食えない事を良く理解してる行動です。

売名行為上等!!!

結果を残してますよ。

「結果」について1つ面白いエピソードがあります。

DVD「バタリアン」の音声解説でウォルターの名前が出てくるんですよ!

ギョロ目の子供の絵を劇中で使用したとゆー説明の中で監督のダン・オバノンが「ウォルター・キーン風の」って言ってるんですね!

この解説がいつ収録されたものなのかは判らないのですが、ビッグアイズの作者がマーガレットである事は少なくとも20年以上前に明らかになっている筈です。

それなのにまだウォルターの名前が間違いとは言え上がってくる。

世間に残したインパクトがどれ程のものだったか容易に想像がつくってもんです!

繰り返しますがウォルターはクズ野郎です。

最低のカス野郎で救い様のないゲス野郎です。

クリストフ・ヴァルツの冴え渡る演技力のお陰で近年稀に見るファッキン嘘つき野郎に仕上がっています。

だからこそラストの法廷での決着の付け方に我々はこの上なくスカッとできる訳なんですが、裏を返せばそれだけウォルターの存在は大きかったともとれる訳なんですね。

エンドロールでマーガレット御本人とエイミー・アダムスのツーショット写真が出てきます。

コレすごく良い写真です。

苦労に苦労を重ねてきた実在の人物が今は幸せに暮らしている事がとても良く伝わってくる一枚ですだがしかしっ!

それもこれもウォルターがいたからこその話。

実話なだけに無視できない事実。

「根暗ファンタジーの旗手」が扱うには、着地点に一抹の引っ掛かりを感じてしまった訳なんですね。

それぞれがプロデューサーとクリエイターとしての役割を分担して、それが上手く噛み合っていれば何も問題はなかったのでしょうが…

…何も問題がなければドラマも産まれへんか_(^^;)ゞ

何にしろ夫婦として何を共有して何を分担するか、どこまで話をしてどこまでを話さなくても良い事とするか、そういった事もナニゲニ考えさせる…………あ!そうか(;゜0゜)!

「ティム・バートンぽくない」と言いましたが、この点でもそーですね!

「リアル夫婦の話」ってのがティム・バートンぽくないんですわ!

「根暗ファンタジーの旗手」であると同時に「俺達チェリーボーイの代表者」でもあるティム・バートン!

こんな世知辛い所帯染みた話を撮ってる事に違和感を感じてたんですね!

そうか!そーゆー事だったのか!

いやー、スッキリした!

ラストの法廷シーンくらいスカッとしました!(*≧∀≦*)

まぁでも最近の先生は、すっかりアカヌケちゃってて以前の童貞臭は微塵も感じなくなってしまいましたからねぇ…

こーゆー映画も撮れる様になったよ的な事だったんですかねぇ…

面白かったから良いんですけど…(´・c_・`)





蛇足:マーガレットの友達で黒髪の方がいて、この人どっかで見た事あるなーて思ってたのですが、wikiってみたらアレでした!

「ブレイキングバッド」でジェシーの彼女役やってた人でした!

イヤイヤ、………お、大人になりましたねぇ…(^-^;