三樹夫

仁義なき戦い 代理戦争の三樹夫のレビュー・感想・評価

仁義なき戦い 代理戦争(1973年製作の映画)
4.9
この作品から第二次広島抗争の始まり。これと次の頂上作戦を合わせてひとつの話で、今作の話は内紛だ(次の頂上作戦は崩壊)。当然仁義なんてなく己の保身と欲望の赴くまま右往左往している。
前々作でやりたいことを全部やって前作は番外編だったので、今作からは頭で考える話になり、つまり政治劇になる。脚本家の笠原和夫は陰謀劇で会話ばっかりなので面白いかどうか不安だったそう。それで前々作、前作以上に創作エピソード、ブラックユーモアを足して群像劇を作り上げたわけだが、笠原和夫が自負する通り完成度の高い群像劇が出来上がっている。もちろん綿密な取材も元になっている広島ヤクザ一大絵巻だ。西条が左手切り落としてましたが、あれは実話エピソードだそう。
コーエン兄弟、タランティーノ、ガイ・リッチー等の群像劇が好きな人はこの作品と相性が良いと思う。私は陰謀劇、政治劇大好きなのでもうたまらなかった。シリーズで1番好きなのは今作。

梅宮辰夫再登場。眉毛剃ってすんごい顔して再登板。この眉毛剃ったのは山口組の山本健一をモデルにしていて、実際の山本健一はかなり眉毛が薄いので剃ったとのこと。またこの作品から武田明登場。仁義なき戦いシリーズの数少ない(比較的)まともな人で、これは現代ヤクザだ。しかし広能同様、キチガイ世界の中にいては貧乏くじばっか引くことになる。広能も政治術、陰謀術を駆使したりとますますもって仁義なきという状況になってきた。
そしてぶっ殺してぇ奴が増えた。打本登場。打本というのはヘタレの出しゃばり、働き者の無能なわけだが、この作品の惨劇の元凶はこいつのヘタレとなっている。とんでもない影響力のヘタレ。ほんと広能は親、兄貴に恵まれない。また打本だけではなく早川という強い者の味方も登場し、これぞキチガイオールスターという様相を呈している。

この作品は明石組と神和会の対立のパワーバランスでどっちの下につくかということでキャラが振り回されるわけだか、対立する相手とも関わりがあり(打本と広能、打本と村岡組の幹部の関係とか)誰が敵味方かはっきりしないし、主人公である広能がどっちの側とはっきりしているわけではないので複雑な人物関係になっている。二つの間をちょろちょろ行ったり来たりしてる奴もいるし、盃で外交やったりで明確な二つのグループの対立にはならない。さらに代理の代理戦争など(浜崎組対小森組)でカオスとなっている。しかし、この組関係のしがらみ、パワーバランスでキャラが翻弄されている様こそ群像劇的楽しさなわけで観ていて面白い。複雑な状況の中でもキャラクターひとりひとりがきちんと裏も表も描き分けられていて、キャラが立っていて、キャラが状況の中に埋没していない。本当に一二を争う群像劇だと思う。しかし、何分頭で考える話なので前作、前々作の勢いがあるわけではない。スピードを見せるか、ハンドル捌きを見せるかという違いなのでしょうがないとは思うが。まあ勢いについてはトラック部隊のシーンが補っているだろう。トラック部隊のシーンの画力は凄まじく、荒くれまくっている。
これでもかってぐらいユーモアも入っており、水虫の薬を塗る槇原、武田の後でキャンキャン吠える槇原と俺たちの槇原が帰ってきた。山守の登場シーンなんてほぼすべて笑える。お父ちゃん、お前の大好きな金の玉2個持っとるんよとギャグも冴えわたり(帝王たる者、貯金額を訊かれたらこう答えねばならない)、画面に山守が現れるともはや安心感が漂う。しかしお父ちゃんは誰も殺ったことないんよのセリフだけは見過ごしてはいけない。こうやって自分の手も汚さず使い捨てで犠牲出しまくって、しかもその自覚すらない奴こそ邪悪であり本当に倒すべき敵なのだ。
また倉元というキャラで、仁義とかそういう綺麗事で若い奴が犠牲になり続けるという、仁義なき戦いシリーズのテーマは繰り返される。
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