りゅうたろ

聖杯たちの騎士のりゅうたろのレビュー・感想・評価

聖杯たちの騎士(2015年製作の映画)
5.0
断片的な映像と語りは、記憶を揺さぶり、投影させる。
この映画にストーリーがないという人は、投影するだけの記憶がなかったか、それに、慣れていないだけだ。
テレンス・マリック作品は作品を頭の中で組み立てることを求められるから、傍観者であることを、観客然とすることを許してくれない。
妻と共に歩く男の目が美女を追い、妻を置いて少し前に出る。
別れは間も無くだが、ドラマチックに慣れた観客はそのささやかさを見逃す。
こまやかな変化、静かな日常の連続はカオスのままそこにある。
登場するたくさんの女たちは、その実同じ人間の違う側面や時代なのかもしれず。路上に座って腕を枕に眠るサンダルの女は、愛した誰かかもしれない。
波に立つ笑顔の女、桟橋の下、海が女を取り込んで広がっている。
男は現代に生きる全ての人だ。
その場に馴染むため自らの一面を誇張し、スパイのように潜む。
本当の自分などどこにもいない。
孤独な男は脚本家として成功している。資本主義的な成功は、孤独を埋める何かではないのだ。それぞれに奔放な女たちは何かを開いてくれそうで何も与えてくれない。
風景の中、聖職者の説法すら断片的で虚しい。誰も誰かの言葉では救われない。
遊興、華奢、華燭、ドラッグ、夢の中。ラスベガスにいるエルヴィスのそっくりさんみたく、誰も自分の人生を歩んではいない。
山を抜ける霧、光を受けるクラブのスモーク、荒野の雲を触媒に、感情が表れては言葉へし損ねる。
君はどんな物語を作り上げただろう。
少し、話して欲しい。
どんな話だから良かった。悪い。ではなくて、
きっと君の記憶の話になると思うから。