Chico

ドライブイン蒲生のChicoのレビュー・感想・評価

ドライブイン蒲生(2014年製作の映画)
4.0
伊藤たかみの同名小説を映像化した蒲生(がも)家とその姉弟の物語。

姉のさきが子供を連れドライブイン蒲生にやって来る。夫ひろしとその家族と何やらもめており家を出てきたようだ。しかし第二子を妊娠していることもあり、やはり一度夫と話し合いたい、と言い、店を出る。母も弟トシも夫と縁を切ってほしいと思っているが、姉をとめることはしない。母親は弟に姉に付き添うように言う。後部座席に幼い娘、助手席に姉が座る。ゆったりとした足取りで、仕方ない、という風にしぶしぶ運転席に乗り込む弟。車は国道を走り出す。

冒頭数分間のシークエンス。ずっと続いていた会話の途中にガラガラっと店に入った客の気分になる。何が起こっているのか、登場人物の関係性は、と探りながら鑑賞し始める。しかしこれがこれからおこる物語の重要なトリガーかと言われるとそうでもない。淡々とした時間の中でゆるりとしたエピソードが積み重ねられていく。

国道沿いでドライブインを営む(営んでいた)蒲生家の二人の子供、姉のさきと弟のトシ。いつもいきがっていて父親に反抗してばかりいる、性にも奔放なさきと、一家の長男として父親に可愛がられ家族の中で一番父親に近い所にいながら、いつも姉の隣にいて、彼女の振舞に否定も肯定もせず寄り添い、ただただ弟として存在するトシ。
二人の日常、父親との関係を通して「家族」の絆と束縛という二面性を、説明を抑制しながら、そして役者の掛け合いを繰り返すことで繊細に描いていく。
車中で会話にあがった父の口癖(?)「くらわんか」をきっかけにして、(現在の年齢は不明だが)高校時代の回想へと飛び、過去のエピソードを軸に物語は展開していく。終盤、弟と姉と娘を乗せた車が、過去の出来事を回収するかのごとく、その結末へ向けてドライブイン(別のドライブインです)へと入って行く。

はじめのほうこそ、その独特のリズムに慣れるのに時間がかかった。例えば、音の挿入の仕方(粋です)、登場人物のやりとり、言葉のかけあいのずれ、固定カメラでの長回しの多用、ブレなど。
登場人物のやりとりは、一見とてもリアルな日常だけど、そのコミカルさも含めてどこか漫画っぽくて、(漫画でいうところのコマ割りが見えるような)カットが生む抑揚、画面の切り替わりでできるリズムにじわりじわりと身体がなれてきて、心地よくなってくる。

そして俳優が皆素晴らしい。特に、姉、さきの絶妙な演技がぐぐっとくる。自身が俳優に疎くてこの女優さん知らなかったのですが良い演技します。そしてその役者の表情やしぐさなど絶妙のタイミングでフレームに収める監督の手腕ときたらすごい。

小説の映像化という点については、原作の舞台は関西(たぶん枚方市)であり、「くらわんか」という言葉が持つ意味を考えると舞台を関東に変えないほうがよかったのではと思い、その言葉も含めて、いくつかの象徴的なモチーフも映画の中でその効力を発揮していなかったような気がした。(原作はぱぱぱっと読んだので全部を照らし合わせてはいませんが。)
しかし、ある程度言葉から解放して画に語らせることに映像化の意義があるのだという当たり前のことに気づき、説明的で伏線の回収に追われた作品に自身が慣れすぎてしまっているのかなと思ったりもした。

父の左手の黒桃のタトゥー、父のアイスピック、コタツの赤外線、クリスタルの水中花

というアイテムをぼんやり意識しつつ、「くらわんか」の意味を知った上で鑑賞してみるとよいかも。

※監督、たむらまさきは長年に渡り、伊丹十三、河瀬直美、青山真治、諏訪敦彦などなど名だたる監督の名作の撮影監督を務めていた方。そして本作は彼の75歳にして初の長編デビュー作品です。 次回作を期待したいと思ったのですが残念なことに2018年に他界されていました。この素晴らしい映画体験に感謝したいです。
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