てんあお

バクマン。のてんあおのレビュー・感想・評価

バクマン。(2015年製作の映画)
3.6
これまでの経緯、と雑感。

予告編と題材に興味が持てず、劇場公開時に見逃し、名画座に戻ってきた際もスルー。その後『SCOOP!』の鑑賞を受けてようやくレンタルビデオでの確認にいたる。個人的な関心のポイントは、大根監督と小松菜奈のニ点のみで、もう一点揃えばもう少し早く観ていた、と思われる。もちろん原作も全くの未読。

鑑賞後の第一印象。やりたいことみせたいことのバランスのために削ったものが多すぎて、いびつ過ぎるということが、何よりも勝る。

一番気になったのは、主役二人とライバルのエイジは高校生の未成年にもかかわらず「親類縁者」の類いがほぼ出てこない。唯一出てくるのは、真城最高のおじにあたる 川口たろう だけ。そのほかには、ホラーかと思えるくらいに、気配すら見当たらない。

父親的ポジションの 佐々木編集長 と、漫画を書く原点にあたる 川口たろう の二人に絞ることで、他に登場させるべき人物の枠を開けた。という建前は理解出来るのだけど、真城最高が(壊滅的に)体調を壊すくだりですら、説明もなく登場人物だけで展開するさまは、寒気を覚えるくらいに恐く思えてしまう。

些末な難癖をいうようだけど、設定でひとつふたつ付け加える程度で解消されることを、敢えてやらないのは、やっぱりホラーに見えるくらいの違和感を残す、という反面教師になってしまう。

一方で、良かった点もある。漫画を執筆している、地味になりがちな場面をグラフィカルに補う映像処理につけられた、音楽の親和性というかシンクロ感。たぶん、ステージングにも定評のあるサカナクションの、特に山口一郎氏の働きによるもの、と思われる。

もちろん演出した大根監督の好みのお陰もあると思うけれど。たとえば VJのライブ に通じるテンポと没入感を、漫画の制作過程と掛け合わせるような映像表現が、飛び抜けて素晴らしいと思った。この点に関してだけいえば『モテキ』のダンスシーンを越えて、この映画が光る一番の瞬間かもしれない。(対して後半の、血道をあげて制作に取り組む現場、との対比にも繋がる。けれど、それはそれで失速感で痛ましいのでむしろ語らず。)

余談だけれど、肝心の漫画家と編集者との信頼関係と漫画雑誌を描いた映像作品でいえば、テレビドラマ版の『重版出来』の方が観やすく整っている。視点を漫画家か、編集者に置くかの違いにもなるが。少年漫画らしさと漫画雑誌の売上との相関関係、についての描き込みの足りなさは、形を変えて『SCOOP!』にも継承されてしまっている。そういう意味で出版業界の実情を取り扱うには映画よりもテレビドラマのほうが、分量的な意味で向いているのかもしれない。少なくとも今作に関していえば、それを補完するテレビドラマが、後に製作されてしまったので、もし薦めるとしたら『重版出来』を薦めるしかない。

そのほか、小松菜奈まわりでいえば、亜豆美保というキャラクターの見えかたと、彼女を取り巻く環境の悪意のなさに、過剰に2次元的なものを感じた。それも前述の余計な登場人物の不在と同じように、漂白された主観的なモノの見えかた、「セカイ系」という考え方にも通じるモノの見えかたの表れなのか、とも感じた。

彼女が漫画のキャラクターとなり、それを見る読者、特に男子中高生の反応は、掘り下げるとどんな感じだったろうと想像する… 。 そういうことを映像でやれない反動の一部が『SCOOP!』に繋がっていったのかもしれない、などと考えたり。
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