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禁じられた歌声のmemoのレビュー・感想・評価

禁じられた歌声(2014年製作の映画)
3.9
イスラム過激派によって占拠された街では兵士たちが作る新たなルールによって人々の生活は制限され、その支配下に置かれる。音楽・タバコ・サッカーの禁止、服装の規制、怪しいと疑われると武器や携帯は没収される。そこにいる人々の生活や日々の楽しみは理不尽に奪われる。命の安全、人権の保障すらされていない。街の外れにテントで暮らす3人家族(父、母、娘トヤ)を中心に、淡々と街に住む人たちの様子を映す。静かだけど強烈な作品。

過激派の兵士たちが街の人たちと普通に会話する場面があるのはちょっと不思議というか、へえ、と思った。祈りを捧げる場の入り口にいるおじさんに「ここには武器はいらない」と諭されて入るのをやめる兵士たち。思想が違う者同士で一対一で話してるシーンもあった気がする。音楽を奏でる家を探し当てると「神様に捧げた歌」だったと報告する兵士(内容によっては音楽禁止も見過ごされることがある?)。過激派の中にも隠れてタバコを吸う者と、それを黙認する者。事情聴取での、トヤの父の静かな訴え(死は怖くない運命も受け入れるただ死ぬ前に一目娘に会いたい、同じく子どもがいる立場ならこの気持ちはわかるはずだ)に気持ちはわかるとしつつも罰を変えることはしない兵士。

牛を殺された相手に復讐しに行くトヤの父のシーンは凄まじい緊張感。銃声の後の静けさ。美しい陽に照らされて広い川を渡る彼を捉えるロングショットは素晴らしいの一言。オープニングとエンディングの逃げる鹿、それを追う兵士の車と銃、またエンディングのトヤの走る姿も印象的だった。サッカーは禁止されているのでエアでゲームをする人たち、故郷の歌を歌う女性、手作り雑貨の店の女性と踊る男性の姿は、とてもまぶしくてうつくしかった。だからこそ罰を受けるシーンは本当にショッキング……(鞭打ち、『戦場のメリークリスマス』のボウイのように土の中に埋めて頭だけ出した状態で石打ちで死刑、トヤの父と母のラスト)

神の教えに囚われすぎて、ただ目の前にいる人が見えなくなるのはかなしい。行きすぎた正義に固執してしまうと、自分に都合のよく新たな解釈を作り出して、一線を越えてしまう。恐ろしいけどそれって誰でも陥る可能性があると思う。少し前に見た『ラジオ・コバニ』で、コバニの街が解放された後でIS兵士(過激派組織イスラム国)が尋問を受けて「こんな大ごとになるなんて思わなかった、早く家に帰りたい…」と泣き出す場面があって(それはあまりにも無責任では…?)と一瞬びっくりした。でも若者が「洗脳」されることもあるし、若くなくても判断能力がなかったり誘惑があれば道を踏み外す、ゲーム感覚でのめり込むこともあるかもしれない。誤った正義に走らないためにどうしたらいいのか、そのためには「正しい教育」と「確かな正解のない問題を学び続ける姿勢」を大切にしていくしかないんだよなー、とぐるぐると考えた。

GPSという名の牛、男の子
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