まさやん

アメリカン・スナイパーのまさやんのレビュー・感想・評価

アメリカン・スナイパー(2014年製作の映画)
5.0
決して戦争礼賛映画ではなかった。


イラク戦争で活躍し米国内で一躍ヒーローとなった凄腕の狙撃手、クリス・カイルの半生を描いた伝記的作品である。


戦争が激化するに連れて彼が積み重ねたのは、彼が自らの手で射殺した敵人の数であった。その記録は祖国で讃えられ、やがて彼は伝説となった。

時に戦場では、幼い子どもや女性にも照準を合わせなければならない。それでも心中に鳴り響く良心を押し殺し、引き金をひく。それが、彼に託された任務であり、狙撃手としてのずば抜けた才能を与えられた彼の使命であったのだ。


しかし彼は、特殊部隊の一員である前に、一人の市民であり、一人の女性の夫であり、そして父親でもあった。

そんな彼の苦悩や葛藤を、人対人の暴力性に向き合い続けてきたイーストウッド監督は見事に描ききっている。

祖国を想い、命懸けで戦地で戦う兵士たちには、たしかに格好良さも見て取れる。僕自身、正直、男の美学をそこに求めてしまうこともある。

けれど、それは戦争の悲惨さや残酷さが常に表裏一体となっていることを決して忘れてはならない。そして、イーストウッド監督は、そのことをよくわきまえているように思う。

リアルタイムで国際社会を震撼させているISILの存在を頭に浮かべながら、国同士が戦うことの意味、人同士が殺し合うことの無意味さを考えずにはいられなかった。

日常を暮らす“羊”と羊を追い回す“狼”、そして羊を守るために狼に牙を向く“犬”がいて、果たして三者が共生する道はないものだろうかと。

きっと彼らは三者三様に、大切にしなければならない“生活”を抱えているだろうに…


イーストウッド監督がこの年齢になってこそ作り上げる、しかもこのタイミングで世界に発信されることにはそれなりの理由があるはずだ。

娯楽映画としても楽しめてしまう完成度の高さも含めて、素直に評価したいと思う。
まさやん

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