猫脳髄

VHSテープを巻き戻せ!の猫脳髄のレビュー・感想・評価

VHSテープを巻き戻せ!(2013年製作の映画)
3.7
1976年からおおむね2006年にかけてのヴィデオ全盛期の回顧とその意義、そして現在でもVHSテープを買い集めるフリークたちの熱狂を収めたドキュメンタリー。

2023年現在、本作でも予言されたとおり、映像作品はサブスクリプションによるウェブ配信が主流となった。わが国でも物理メディアのレンタル大手が次つぎに店舗を閉鎖し、先ごろその旗艦店もレンタルスペースを大幅に縮小する改修工事に入ってしまった。

76年のいわゆる「ヴィデオ革命」は、映像作品(特に映画)の流通形態を大きく変化させるとともに、撮影の簡素化による映画製作者の爆発的な増加という「民主化」をもたらした。ポルノを先駆けに、低予算映画にとっての黄金期が到来した。裾野が広がったことで無数のトラッシュがはびこった一方で、数かずのマスターピースも誕生している。VHSの「巻き戻し」で映画編集の技術を学んだという発言もある。

ヴィデオ革命の震源地になったわが国でも、「Vシネ」と呼ばれるヴィデオ専用の新たなジャンルが生まれた。パッケージイラストを先に考案し、ウケた作品を製作すると言うアベコベな順序もヴィデオ文化ならではと言える。また、コピーを重ねた「海賊版」に代表される独自流通の発展も興味深い。マニア間の交換やさながら密造酒のようなやり取りは、それだけで楽しみを生んだことだろうと想像される。何とも豊饒な時代である。

しかし、作中で警鐘が鳴らされたように、物理メディアからウェブ配信に移行したことで、逆に流通の制限、売り手側の管理が強まってしまった。動画共有プラットフォームも著作権にはシビアである。権利の遵守と自由な流通による創造力の醸成はトレードオフであり、なかなか悩ましい。

さらに、ヴィデオからDVD/Blu-Rayへと物理媒体が進展していくなかで、当然零れ落ちていく作品も多い。コレクターたちはその取りこぼしを求めてヴィデオをかき集めるが、テープの耐用年数(30年ほどだそうだ)がどんどん追い打ちをかけていることは大いに懸念される。豊饒な文化がそれこそ過去のものになってしまわないように何ができるか。いち映画ファンとして考え込んでしまう。
猫脳髄

猫脳髄