マツシタヒロユキ

フレンチアルプスで起きたことのマツシタヒロユキのレビュー・感想・評価

5.0
あー。あかんあかん。出た。
「俺の映画」なやつだこれ。

2年前の「そして父になる」が如く、
いつまでも「父未満」でしかいられないオトコにとっては大変残酷な作品です。

家族でバカンスに来ていた雪山リゾートでの食事中、突然そこに雪崩が襲いかかる。
幸い大事の無い程度だったのだが、その時父親はスマホだけ抱え、ひとり走って逃げていた。
そして母は子どもふたりを抱きかかえながら、しっかりとその姿を見ていた。
5日間の幸福なはずのバカンスは、そこから少しずつ不協和音が増幅し、何かが崩壊していく。 ...怖いです。
これは何よりも恐ろしいホラーです。
「ゴーンガール」も相当に恐ろしいものでしたが、
あのようなエグい描写は一切なく、むしろ大したことは何も起こらない。
なのに本当に本当に怖い。

バカンスの5日間だけを描いた物語ですが、
このいち事件がきっかけとなり、
「男と女」「父と母」「親と子」「家族」の、ある意味真の姿があぶり出されていきます。

そしてこの作品が異質で素晴らしいのは、
これをブラックコメディに仕立て上げているところ。
ビバルディの「夏」を意図的に繰り返し使う怖さと滑稽さ。
男の威厳が崩壊していく様をあまりにもアホ過ぎに描くことで敢えて過剰な感情移入をさせない巧さ。

そんなセンスあるユーモアと、シリアスなアクシデントがいつどこでやってくるのか分からない緊張感。
だから少し長いようなのに、ダレない。

そして終盤前に、突如わざとらしい茶番のような形で家族がハッピーに収まったかと思いきや、
またある象徴的なアクシデントが起こり、
そこからのラストシーンには「こんな風なまま、いつまで歩き続けるのだろう」という不穏さが漂う。
ああ...、分かる...。分かってしまう...。 しかしラストの各々が取る細かい行動が秀逸過ぎます。

凄いなこの監督...。 ほんととんでもない作品でした。
今年ベスト級。

個人的に「ブルー・バレンタイン」「レボリューショナリー・ロード」「ゴーンガール」を
勝手に「結婚怖い三部作」と呼んでいたのですが、
この「フレンチアルプスで起きたこと」が
「結婚怖い(けど人生は続くんだよ)モノ」として
次なる系譜をたどり始めることになってしまいました。