Hiroki

フレンチアルプスで起きたことのHirokiのレビュー・感想・評価

4.0
2022カンヌコンペ監督予習②は北欧の鬼才リューベン・オストルンド。

今作は2014年のカンヌある視点部門の審査員賞を受賞していてリューベン・オストルンドを一躍有名にした作品。ヨーロッパでは他にも様々な映画賞を受賞しています。
そしてハリウッドでもウィル・フェレル主演でリメイクされていました。

彼の作る映画はとても興味深くて、一言で表すと“心理実験”。
リューベン・オストルンドは映画という媒体を使って大々的な心理実験を試みている。そんなイメージで私は捉えています。
とても面白い海外のデータがあって、今作を好意的に評価した人の内、9割くらいの人が「不快」「気味が悪い」「辛い」のようなネガティブワードを使っていたらしい。
とても好意的な評価をした映画に使うワードではない...しかし彼の映画を観た人ならその意味が良くわかるはず。
ミヒャエル・ハネケから影響を受けているというインタビューを見て「なるほど!」と納得してしまいました。だから私はオストルンドの作る映画が好きなんだなーと。

まず基本はある家族のフランスへのバケーションの話なんだけど、その周辺に不快さをめちゃくちゃ散りばめてます。
最初に出会うウザい記念写真のカメラマンから始まり、なんか凄い見てくるホテルの清掃スタッフとか、人違いをわざわざ伝えるてくる女性たちとか。別に怒るほどでもないけど「不快だなー」みたいな人たちが至る所に出現する。
これで私たちの心にザワザワが繁殖していく。
ただ私は彼の作る映画はコメディだと思ってます。基本は笑えるかどーかで好き嫌いが分かれるかなと。
今作でもこの家族の“論争”に巻き込まれてしまう人々のはた迷惑さにたくさん笑ってしまう。
...
つまり目線が変わるとそれはまた別の風景が見えてくるんですよね。
それはきっと写し鏡のように。
「不快だなー」と家族に共感して憤る私と、「この家族はクレイジーだ」と巻き込まれてしまう人々に共感して笑う私。
オストルンドが私たちに問いかけるのは“良識”と“主体性”。
家族の父であり夫であるトマス(ヨハネス・バー・クンケ)は雪崩の中で1人で先に逃げた事とその事実を自ら申告しない事について妻のエバ(リーサ・ローヴェン・コングスリ)から激しく叱責される。
問われているのはトマスであり私たち。
これはよーく考えてみると、そこらへんのホラーやスリラーよりよっぽど恐ろしい。

ちなみにオストルンドは友人夫婦が旅行中に強盗にあって銃を突きつけられた時に夫が1人で逃げた事を後から口論している姿を見てこの企画を思いついたらしい。
そしていろいろな資料を調べた結果、災害や事故などが起きた時に先に逃げるのは圧倒的に男が多いというデータがあるみたいです。

あとはヴィヴァルディ四季『夏』を初めとする不穏な音楽も良い。
そしてなんといってもカットや構図が素晴らしい。フレンチアルプスの風景の絶大さも含めて。
映像関連好きな人はこれだけでも楽しめるんじゃないかな。

2022のコンペ作『Triangle of Sadness』はウディ・ハレルソン、ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン・クリークが出演。海賊に襲われ無人島に漂着してサバイバルする物語。
オストルンドによると「主人公はもうそろそろ引退を考えている男性モデルで自分がハゲ始めている事に気づく」という話もあるらしい。
本当にこの人はお茶目というか意地が悪いというか...
んー楽しみ!

2022-43
Hiroki

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