LUXH

クィーン・オブ・ベルサイユ 大富豪の華麗なる転落のLUXHのネタバレレビュー・内容・結末

3.4

このレビューはネタバレを含みます

成金の悪趣味(現実離れしたとんでもない浪費、価値観の形成、その環境下における子どもの育ち方)に嫌悪感を抱く人は鑑賞なさらない方がいいかもしれませんね。もちろん、それだけではない複雑なドラマがあるのですが。

当初は写真の断片的な接触から彼らのスタイルを伝える手段として映画というツールが引き出されたそう。業績絶好調3人目の現在の妻とも7人の子供を設けてラブラブでド派手なアメリカ一の豪邸を建設真っ最中さ!というところからスタート。

ビジネス的なところでいうと従業員の煽り方、客引き商法、著名人をチャリティーの名の下に宣材化、営業で100%の契約を勝ち取れ!(実際100%になっている言い切っている、がそれも宣材パフォーマンスかもしれない)、ブッシュ政権にしたのは私だ、私がいなかったらイラク戦争もなかっただろうね、と何やら公にしていいのか不穏な事まで自慢気に言い放っている。そして大きな転機となるリーマンショックによる、大量解雇と再三の給与カット、物件所持品のオークション。また、銀行の表と裏の顔についても触れている。

子供達は非常に複雑だ。まず元妻との間にできた息子。あとから引取って劇的な人生転換をさせたと思ったら2番目の母のエゴで「自分の子以外は知らないわ」と追い出されたり。それでも父を恨まないが親密ではなくボスと一従業員の関係でしかない、それでも大勢が反発しようと父の意志に全力でついていくという、非常な忠実さも持つ。しかし社員の給与カットが何度も続いていること、本当に困っていて直談判したが断られたことなども赤裸々に語る危機感悲観も併せ持つ、一般常識に1番近く、稀有な息子といえるだろう。第3の妻の長女にもスポットが当たり、何不自由なく与えられることを友達に自慢する。美しい母が誇りで愛情深さも感じとり正義だと思っている。(現実の切迫した状況に何年も奔走し悩み抜いており、しばしば子供達や妻に節制を教育している父を理解せず)家族のためにパイを焼いてたのよ、大嫌いよパパがこの家の中心だなんていうのは大間違い。ママは反論しないことを選ぶけど反発すべきよ、きっと好転するはずだわとカメラの前で自分の倫理観を疑わず笑顔で話す。また、妻の兄の実子を養子に迎え入れてもいる。彼女はめちゃくちゃな人生を送ってきた子なのと引取の経緯を語るのだが、幼いながらかなり筋の通った、最もな道徳心を持つ。なんでも与えられる生活は間違っている!と意見を述べ同居当初にはかなり妻の実子達の既視観を変えたようだった。それも時が経ち、彼女もこの一家に染まってゆく。総じて、母の影響を(善良感として)大きく受けて育っているようだ。

メイドや乳母。出稼ぎできた諸外国のメイドを使うことが多いようだ。目的の資金がたまり卒業していった者もいる。が母国に息子を置いて父のドリームハウスを建てる事を目標に働き続けて11年の女性がいる。息子はもう26歳、愛してくれると言ってくれるのは仕えてる家の子達なのだと寂しさと涙と、肯定が漏れる。彼女達は献身的で大変な数の生物や子供達にも愛情深く教育母としての役割を担っていたが20名近くが1日で解雇、家が彼女達なしでは成り立たなかった事が改めて明るみになる。

夫婦関係。冒頭別々にインタビューが入る。とても良好なのだが自己陶酔の中にいる。ミスフロリダでめちゃくちゃ美人の妻に対して、結婚生活を終えて独身に戻った時に出会った最初の女性なんだ。彼女は僕のどこがいいと思ってのるかな、と話す夫。妻はなんだかとても崇められている感じが良かったわ。今の生活に満足で夫も精力的なの、10年後は判らないけれどその時に試せる手段は残ってるわね。とオープンに持ち前の笑顔と明るさを振りまいている。そしてその時の唯一の共同認識の夢と作業がヴェルサイユ宮殿を模した豪邸の建設だった。その後、互いに幼い頃は貧しい生活にあった事が個々に回想される。

夫について。富豪で余裕も見せているが終始仕事人間であることが判る。そして時代のリーマンショックという不運に巻き込まれた事で総資産に突然マイナスの符号がついてしまう。多くの場合資産を大きくするに先行投資をするのはセオリーと言える。それを性急なものにするには自己の財産と融資を受け投じる事でより成果が得られる。彼も決して浅知恵だったわけではなく、時代が違えば大成していた妥当な布石を打っていたと思う。大変な事態を前にしても資金集めの手段をまだまだ頭の中では無数に駆け巡っていて望みを捨てていなかった事からビジネス手腕は十分にあった事が伺える。凍結さえされなければ、営業が再開されれば資金回収も問題なく全てが回り始めるという、まさにもどかしい状況。慈善事業もミスアメリカの活動団体には寄付するが完全に自分が好きだったイベントという思い入れからくるもので、ワールドワイドな社会貢献に関しては積極的に行っていない様子。父は構ってくれない人だったというが子供にはある程度の父性をみせている。資金難から手を尽くして神経質に疲れ果ててしまった彼がとても心が苦しくなる。オープニングに語った、妻とは違って物や服には興味がないんだ、と話す口ぶりが段々と、幸福感がない、非常に厳しい局面だ、豪邸がたったらBB(愛犬)と(妻子抜きで)2人で暮らしたい、誤解しないで貰いたいんだがお金がないわけじゃないんだ、祖母がハネムーンで板チョコをねだったが買えなかった、だから母の誕生日に毎年プレゼントするのはこれなんだああ有難う、電気代は払わないからな、有り難みが分かるだろう、2年間悩み続けている夫はピリピリして部屋に引きこもり山積みの書類と向き合っている。部屋に入ってくるものすべてに電気を消せと繰り返す。妻の節制感のなさに魂を抜かれる思いでいる。挨拶のキスも嫌悪で受ける状態から拒否へ。

妻の過ごした家も小さく、トイレ待ちが日常だった。IBMしかない町で育ち、エンジニアが事務員にしかなれないと感じて大学進学へ。優秀な成績を収めていた。IBMにも入社したがカウントダウンプログラムを作っている社員に目がとまり話しかけると「退職までのカウントダウン。0になったら人生は始まるんだ」と返ってきた衝撃を機に町を飛び出しモデルへ転身。その後1度結婚するがDVを受けるようになり顔を傷つけられ「もう稼げないな!」と吐き捨てたその夜に刑務所行き、別れる。新しく大富豪の妻になってからは笑顔の絶やさない子供好きな彼女。初産は体型を気にしていたが子供って楽しい、乳母の存在を知らなかったから2人までしか育てられないと思っていたの、と話す。やがてメイドも多量に解雇されたが節制が必要となんとなく理解してお金がない事を冗談交じりに口々に唱えるものの、奥様これは買えないんです、のメイドの制止も聞かず「みんな喜ぶわ!これだって(ペットの犬)が喜んで噛み付くわ!キャビア大好き」と結局アメリカサイズの買い物かご4台分位お買い上げ。夫の誕生日やクリスマスパーティーにプレゼント三昧で散財してしまう。多くは語られなかったが夫が言うには集めたり買わないと別の部分がバランスが取れなくなってしまう、とのことだった。妻の秘密、一つの心配要素がまだ隠れているようだ。

ベルサイユ豪邸とラスベガスのビルへの固執。多くは手放したがこれだけは譲りたくないという夫の執念。ラスベガスは営業が回り始めれば機能を持つだろう。ベルサイユ豪邸の金銭的な利益というのは正直言ってない。さらに言うと建設途中で彼の最もこだわるこの宮殿の完成なのだが本当のベルサイユ宮殿の美しさを理解し惚れていないと思う。模造品、ハリボテ感を感じるのは私だけだろうか。

2人のすれ違い。2人は深く話し合ってきていないようだ。妻は健やかなる時も病める時も必ず一緒にいる。私から別れを告げる事があるとしたら死ぬ時だけ。と苦境の中で芯のあるインタビューを堂々と受ける。ヴェルサイユについても固執は見せておらず、彼女なりに倉庫で不用品を売りさばいたり寄付したりといった活動を見せていた。一方の夫は、原動力は愛ですか?の問いにいいえ、と応えるようになっていた。言葉を選び、正直子供の扱いに困っている気分なのだと言い放ってしまう。既に様々な所有品を手にし物欲がないと言っていた彼も手元にほとんど残っていない状態を前に、欲しいものをポツリポツリとつぶやく。そして時間を戻して色々やり直したいと。そこにラスベガスのビルの建設は入っていなかった。低い利子に中毒になってはいけないのだ。と力強い経験談を語った。

自己経験になりますが。銀行に借金なしでの経営は難しい。でもうちはずっとそれを続けている!業績も連続して上がり続けている!成長するためには利益の投資が不可欠だ!と朝礼で社長が社員に演説を繰り返ししていたシーンが思い出されます。勿論、それが良くも悪くも何を伝えようとしているのか強調しているのか理解はしていました。(無借金がクリーンな会社であること実力があること、そして社員は人員不足を、給与を、労働時間を耐え忍ぶのです)それこそが成功の秘訣とは思いません。実際には厳しいことがつきまといます。でも本作の彼の失敗談とメッセージの「銀行から金は借りるな」は痛切で重みのあるもので、このスピーチを思い出しました。

良い趣味かはさておき、大きな豪邸建設の夢を語った冒頭とは状況も変わり、夫の2年前の状況と今の状況を重ね、カメラの前でアメリカンドリームのはずが転落人生を見せてしまった、と回想した部分が引用され、名誉毀損で監督は訴えられてしまったとか。(自己発言であり、中傷の意図がないという主張が通り勝訴)夫は夢を捨てておらず150年でも生きてみせる、足りないのはお金よりも時間なんだ、必ず実現させるという強い思いがありましたから、そこだけピックアップされたのは負け組レッテルを貼られたようで自尊心が大きく傷つけられたことは理解に難くないです。発言をしたのは彼ではありますが。さて、現在は最終的に経営権を譲渡したり、別の買収を始めたり、TV番組のオファーを受けたり(?)、宮殿は建設の方向へ動き出したようです。まだ詳しくは解りませんが、不幸を見るより俄然応援しています。

妻はモデル時代自分でかなり稼いできた実力者で、煌びやかな彼女が家に入りユーモラスで周りの見えていない楽天的な部分が際立っているのだが実は才色兼備。もしもビジネスパートナーとして夫が見ていてくれたら、打ち上けていてくれたなら外交(メディア出演)などに乗り出し、また夫にとって心のよりどころとなる存在に好転した可能性も秘めているのではないだろうか。夫の不機嫌の意味が本当にわからなかった彼女も、彼女も最後の方でどれほど深刻な状況なのかやっと知る事となる。「私はバカじゃないのよ。でも無知ということはバカと同じなの」と悔しそうにも悲しそうにも語っていた。その少し前、私たち、お金の話はしないの。あなたのほうが知ってるんでしょう?とカメラに向かって話しかけます。多分それは結婚当初からの夫側からの約束だったのではないでしょうか。なん周りも年上で財力と心の余裕もあって、きっと、息子の結婚式で新婦に語りかけた「あなたはこれから先、何も心配することはないよ」というような事を、妻を寵愛していた頃に囁いたのではないかと。そんなことを勝手に想像致しました。
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