青野姦太郎

ブラック・スキャンダルの青野姦太郎のレビュー・感想・評価

ブラック・スキャンダル(2015年製作の映画)
2.9
本作は、マフィアのボスであるバルジャー(ジョニー・デップ)の非道な犯罪行為を、周囲の側近たちの司法取引上の証言によって再構築していくといういわゆる『市民ケーン』的構造を採用している。これは、彼がなによりも裏切り者を憎んで必ず殺害するものの、最後には一番信頼した腹心達の裏切りによって彼の犯罪が証明されてしまうという皮肉な事実の明示であると同時に、バルジャーの内面を分かり得ぬ空虚な中心とすることで、彼の極悪な犯罪行為の計り知れぬ恐ろしさを増幅させるためのものだろう。実際、マフィア勢力の強大化やその過程における仁義なき闘いが可視化されることがないため、我々はこの映画が持つ物語の深刻さの根拠をバルジャーという人物それ自体に求めるしか無いのだ。しかしながら、彼が「何を考えているか分からない」ことが恐怖に結びつくには、彼のフットワークの軽さや陳腐な殺しの方法はあまりにヌルい。そのため、彼が「何も考えてない」行き当たりばったりな単なるバカに見えてくる。
夕食上で「家族の秘密のレシピ」を漏らした仲間を脅す場面など、「何を考えているか分からない」ことの魅力が発揮される瞬間自体はあっただけに、それが生かされなかったのはただただ残念。