はぎはら

百円の恋のはぎはらのレビュー・感想・評価

百円の恋(2014年製作の映画)
4.3
30歳を過ぎて、引きこもり同然の暮らしを送っている女性一子を安藤サクラが演じる。

弁当屋を営む実家で、背中を掻きながら小学生の甥とゲームに興じる毎日。無造作に伸びた髪で自分の顔を隠す。深夜、腹の足しにするために百円ショップに出かけるのが唯一の外出の機会。

社会の落とし穴に落ちてしまった女性。もちろん落とし穴を掘ったのは自分自身なのだが、あることがきっかけで、落とし穴から這い上がろうとする姿を描く。

そのきっかけは、ボクシングジムに通う男への恋だ。百円ショップでバイトする彼女が見つけた恋だから「百円の恋」なのだが、この恋が彼女自身を見つめなおすきっかけとなる。

新井浩文演じる恋人の狩野も相当風変わりで、一子の部屋に転がり込んだと思ったら、たまたま通りかかった豆腐売りの女に惹かれて去っていく。

ここからがこの映画の真骨頂なのだが、一子は懸命にボクシングに打ち込む。
狩野が敗れたボクシングの試合後の光景が彼女を捉える。勝者も敗者もお互いの健闘をたたえて抱擁する姿を目にした時、彼女の心にスイッチが入る。

彼女は、初めて自分の手で世界とつながろうとする。相手と本気で撃ち合うプロボクシングが世界とつながる通路なのだ。

安藤サクラがスパークリングに打ち込むシーンは神がかり的だ。自分を変えようとする意志がストレートに伝わってきて素晴らしい。毛虫が蝶に脱皮するように、戦うボクサーに変身する様には鳥肌が立つ。

これが本物の演技の力だと感じる。あっぱれ、安藤サクラ。

ラストシーンも、一子の健気さが表現されていてとても良かった。
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