Machiko

はじまりのうたのMachikoのレビュー・感想・評価

はじまりのうた(2013年製作の映画)
5.0
「音楽の魔法だ 平凡な風景が意味のあるものに変わる 陳腐でつまらない景色が 美しく光り輝く真珠になる」
……これは作中の台詞の引用だが、この映画はまさにその「音楽の救済性」をこの上なく真正面から描いている。
仕事が上手くいかない時。家族と疎遠になっている時。恋人の浮気が発覚した時。音楽は彼ら彼女らにそっと寄り添い、前を向いて歩く活力を与えてくれる。世の中はうんざりすることばかりで、何もかもちっとも思い通りにならないし、時にアルコールに頼ったり、頬を涙が伝うけれど、そんな状況を「歌にする」ことで、創造のエネルギーにしたり、深刻な悩みをユーモアで骨折させることができる。「ONCE ダブリンの街角で」「シング・ストリート」もそうだったが、ジョン・カーニー監督は、そういう音楽の持つ力にすごく自覚的に作品を作っているのだと思うし、カーニー監督自身、音楽に助けられた経験が何度もあるのだろう。
参加する予定ではなかった娘が急遽ギターを弾いたり、たまたまその場にいた子供たちにコーラスを頼んだり、人と人を繋ぐものとして音楽を描いたのも素晴らしい。
個人的に好きなシーンは、プレイリストを夜の街を歩きながら2人並んで聴くところと、冒頭、職場でトラブル起こしたマーク・ラファロがキーラ・ナイトレイの歌を聴いた時、アレンジが加えられて聴こえたところ!あれは音楽プロデューサーとしての彼の職業病というのもあるのだろうけど、それより何よりきっと彼があの曲にすごく心を打たれて、まるで愛する人の顔が実際より遥かに美しく目に映るように、あの曲がさらに豪華に、完成度の高いものとして感じられたんだと思う。

音楽を愛する人の、音楽を愛する人による、音楽を愛する人の為の、素晴らしい映画でした。なんだかすごくとりとめのない感想になってしまった……
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