『音楽の魔法によって街じゅうの全てが意味のあるものに変わる』
そう言って二股ジャックで音楽を分け合いながら、言葉は交わさずにNYを歩き回る。
あの瞬間、二人は間違いなく恋に落ちていたし、思いとどまるべきだという気持ちも同時にあっただろう。
全編を通して、キャストの微妙な表情による感情表現が素晴らしいと思った。
登場人物はみな過去になにかを置いてきていて、それを忘れられずにそれでも前に進もうとしている。
人は勢いよく前に進んでいる時ほど後ろが気になり、後退しそうな時ほど何かを振り切るように前を向くのかもしれない。
そんな気持ちの不安定さをキャストの表情が随所に物語っており、しかし素晴らしい音楽がそれらをすべてポジティブに感じさせてくれた。
身も蓋もない言い方だが、アダム・レヴィーンが歌うだけで全てが肯定される。
それほどに曲と歌声に胸を打たれた。
ラストシーンでは、ヘッドホンを外し顔を近づけて一つのイヤホンを片耳ずつ分け合う。
二股ジャックはもう必要がないだろう。