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チューリップ・フィーバー 肖像画に秘めた愛のJIZEのレビュー・感想・評価

3.6
チューリップバブルの時代アムステルダムを舞台に豪商の既婚女性と恋に落ちる肖像画家との物語を紡いだ古典ロマンス映画‼︎陰性が濃い俳優デイン・デハーンの最新作という名目で遥か前から期待してたが何度も延期になったり公開日が白紙になったりで一時は固唾を呑んだが約一年の公開ブランクを経てようやく観た。最初に結論から云えば激動かつ贅沢な時代物としてフェメールの美的な精神性を絵画のような風通しのよい映像で踏襲しながらも『ロミオとジュリエット(1996年)』風な男女の溺愛劇をメインにそこそこは時代ものとして没入感が深い作品でした。また主にチューリップバブルの狂騒や男女の冷静な判断ができなくなる恋の熱狂などあらゆる熱に人生を狂わされ道を踏み外していく悲劇はシニカルながらも現代の困窮する社会と地続きで呼応するテーマだったように感じる。この作品では鮮やかなコバルトブルーのドレスに身を包んだエロスを纏う恍惚なアリシア美を存分に堪能できます。怪優デイン・デハーンのああいう地位も高くなくただ内側に輝きを宿してるような人間を演じれば右に出る者はいないなと思いました。脇役でカーラ嬢が出てる小ねたの背景も近作で『ヴァレリアン(2018年)』での息が合うコンビ感を彷彿とさせずにはいられない。

→総評(希少種の球根が投機対象となった史実譚)。
総じて豪商夫婦の転落劇としては適度な娯楽が効き面白い。頓挫しかけた製作過程のドタバタが影響したのか独創性が薄い脚本や感情移入がやや困難な主要キャラたちの先を省みず直感の感情で突っ走る感じには目を瞑らざる得ない。また女優アリシア・ヴィキャンデル演じる主人公ソフィアの他尊心が影響してかここまで奈落の底に落ちるか…という程度に自らの判断で下に転落していくので時代の困窮性も相まって観てて息苦しくなりました。突き放して云えばソフィアがそこまで他者を思いやり実人生を棒に振る意味が分からない。また合間合間で挿入される女のナレーター的な語り口の演出もこの作品には言わずもがな無用であろう。文芸調な作風を意識してなのか無難なボソボソいう語り口が裏目に出て平坦に感じてしまった。主に17世紀オランダの高値で取引された経済バブルの激動性やフェメールへの敬意,豪商の若き妻と無名画家の妖艶なる溺愛劇などそれぞれが目まぐるしく他者を絡ませては翻弄させる。クリストフ・ヴァルツ演じる夫コルネリスの暴走を後半で期待したが怒りの納まりが無難すぎたかなあという印象。黄金時代のメッキが剥がれ落ちる前半と後半の事実性に則した燃え上がる愛の行方を衣装や絵画などレンブラントやフェメールの哀感に乗せこの秋口に味わってみてはいかがでしょうか。
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