鹿江光

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)の鹿江光のレビュー・感想・評価

4.5
≪90点≫:緊張の糸が途切れる瞬間、一瞬にして世界から飛ばされる。
一世を風靡した男のアイデンティティー・クライシス。かつて頂点へ近づき、フィクションの中で生きてきた男たちの翼が燃え、形のない名声を追いながら再起をはかる姿は、とにかく切なくて涙を誘う。
話題のワンカット・長回し風の手法がとにかく見事。観客側は息をつく暇もないまま、流れるように彼らの姿を追う。登場人物たちの心情の機微が、特異な映像表現で描かれているのも良い。サブテーマでもある「他人の目に映る自己」「愛を語る」ことも相まって、必ずしもカッコ良く幕が閉じない点も良い。
視界が不明瞭なマスクを付けて、自己愛に溺れながら生きるのか。それとも、後遺症を抱えながら他者を省みて、無償の愛を捧げるのか。地に堕ちるイカロスを彷彿とさせるオープニングカットから、あのラストへ。最初の1秒から最後の1秒まで、芸が細かい。問題のラストに関しては悲観的な感想が多いようだが、それも然り。ただ個人的には、光を感じる清々しさというか、それも「ある種の救いだ」という反転解釈ではなく、文字通り、今後の再起を照らす光を感じた。
執拗なくらいのドラム音のBGMが、観客の鼓動を鳴らして、効果的で血圧が上がりそう。
過去との完全な決別というよりは、過去と現在の住み分け。誰にとっての自分となるか、誰にとってのバードマンとなるか。これほどまでに希望に満ち溢れた作品もないだろう。
原題なら「or」、邦題なら「あるいは」、という「選択の存在」が重要になってくる。宣戦布告の要素も否めないが――、ただ「どちらかひとつ」を排除し、「どちらかひとつ」を優位に立たせる、というわけでもないように思える。そこには両者の適度な共存があるのだ。
鹿江光

鹿江光