にいにい

バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のにいにいのレビュー・感想・評価

4.0
2015年度アカデミー賞にて作品賞、監督賞、撮影賞の3部門を制した本作。一度観ただけでは考えがまとまらない、あらゆる要素が積み込まれた作品だった。

あらすじはこうだ。かつて『バードマン』三部作にて抜群の人気を誇るも落ちぶれてしまったマイケル・キートン演じるリーガン。そんな彼がかつての栄光を取り戻すべく、ブロードウェイに挑戦するお話。それだけ聞いたら「昔の俺は凄かった」爺がカムバックを果たすおっさん讃歌映画に思える。ただ本作はそんな単純なものじゃない。

もう散々出尽くしてるだろうが、この映画を語る上でルベツキの撮影を無視することは出来ない。長回しと言えばこの人だとおもっていたが、ここまで出来るなんて。1本の映画がまるで1カットで撮られたようなカメラワーク、こんな映像勿論初めてで衝撃的だった。映画の中での4日間をシームレスに我々も体験することになる。さらに時間を繋ぐだけでなく、登場人物の背後や周囲を展開するその映像により登場人物(主にリーガン)の視線、そして浴びせられる視線を体感することになる。この映画において自らの視線と他人の視線というのは鍵になる気がしたので、この撮影法はきっと意味があるものだと思う。もし意味が無いとしてもそのアイデアに脱帽だ。

撮影と同じくらい印象的だったのがBGMとして鳴り響くドラムスコア。時にけたたましく、時にリズミカルに鳴り響くその音は混沌としたリーガンの4日間を際立たせていた。

自らの幻影であるバードマンを纏いながら不慣れな舞台に役者として立ち向かうリーガン。そんな彼の周りには関係が上手くいかない娘や彼女、元妻にブロードウェイ俳優。とにかく混沌としている。途中何度か語られる現代っ子のSNS批判や批評家批判にも通ずるが、情報の波がうねりを上げ、不必要なものはすぐに呑み込まれていく、そんな混沌とした現代を生きるハリウッド俳優の心の叫びが聞こえてくるかのようだ。
ブロードウェイをオムツ姿で駆け抜ける姿が自身とは関係ない世界だと思っていたネットの世界において、自らの存在を世間に示すことになろうとは。

ラストシーンはあらゆる解釈が可能だと思うが自分はハッピーエンドだと思った。主人公リーガンにとってという注釈付きだが。自らの存在を示すため、飛んだリーガンはまさにあの瞬間バードマンになった。

しっちゃかめっちゃかになったがオスカーも納得の作品だったと個人的には思う。好きか嫌いかは別としてね。
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