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バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)のyu8cinemaあなたと映画のレビュー・感想・評価

4.0
『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(原題: Birdman or The Unexpected Virtue of Ignorance)
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Netflixで公開中のアカデミー賞作品なのでちょっと解説します。
多分、この映画を1度観ただけで、「あぁ、よかったー」って思える人ってどれだけいるのだろうか。
当時、僕も劇場で観たけれど正直1回での理解度と言うのは相当低かったと思う。
最低限の時代背景と向こうのトレンドを理解しないとつかみどころが難しい。
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今作は第87回アカデミー賞で作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞の4部門を受賞しているバックヤード(裏方)がかなり評価された作品である。
監督のアレハンドロ・イニャリトゥ氏はすでに『21グラム』や日本でも話題になった『バベル』などで評価をされていたし、本作の翌年には『レヴェナント: 蘇えりし者』で再度、監督賞と脚本賞をアカデミー賞するほど監督としての評価が高い。
一概には言えないけれど、ディテールのこだわりが強くなる作品ほどエンタメ的向きなわかりやすい作品とは離れてゆく。
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本作もイニャリトゥ監督特有の風刺的な要素がシニカルなコメディとして表現されている。
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2014年当時はまだSNSが若者や主婦層の文化で、お堅い方からすると「SNSなんて!」なんて言われていた時代で、インスタの日本上陸が同じ2014年ごろと考えるとSNSが世間的な地位を確立するのはまだ先の時代だった。
そして、映画業界はマーベルやDCシリーズなどのアメコミ、スーパーヒーロー物が席巻していた。
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本作は著名人なのにツイッターのアカウントすら持ってないほどSNSに疎く、ヒーロー物でスターの座を掴むもその後ヒットに恵まれないまま60代になってしまった過去の遺物が主人公というまさにこれだけで時代に逆行している強烈な皮肉が利いた作品である。
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SNSなんかクソだと叫び、ろくに俳優としての評価されてないにもかかわらず舞台芸術に挑戦し、ニューヨークタイムズや批評家に相手にされない。
ところが、魅せたい部分とは違う自分がSNSでさらされ、その滑稽な様子が注目を浴びることで舞台は話題となり最後は批評家にリアルだと評価される。
自分のエゴと戦うことで時代に逆行してゆく彼は滑稽で仕方がない。
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とにかく、全てが皮肉なのである。
ただこれは誰しもの成功体験の後ろに控えていることを忘れてはいけない。
劇中の彼は成功があるからこそ戻りたいと思う。
けれども、その当時苦しんだことを忘れてはいないから別の角度で登ろうとする。
すでに登れる道があるのに本来ありたい自分とは違うからと別の道を選ぶ。
それが甘えでしかないことを外からみている僕らはわかっている。
そして、同時に人間誰しにもそういう節があるということを痛感させられる。
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時代とトレンド、そして感情としての共通点があるからこそ評価された作品です。
是非ご覧ください。