糸くず

メニルモンタン 2つの秋と3つの冬の糸くずのレビュー・感想・評価

3.6
何とも言いがたい映画である。

この映画は、登場人物によるナレーションとドキュメンタリー番組でのインタビュー映像のような一人語りで話が進んでいく。ほとんどの時間は彼・彼女らのおしゃべりをじっと聴くしかない。

この語りに深遠な内容が含まれているかというと、そんなことはない。二つのカップルの馴れ初めが語られるだけである。

もちろん深遠な内容がないからといって、語りが退屈であるとは限らないが、盛り上がりのない話をだらだらと聞かされるのは辛い。そもそも「かっこわるいハゲの恋愛話」という時点であまりパッとしていないというのに。

「盛り上がりのない話」と言ったが、この話、大事件がたくさん起きている。

アルマン(ヴァンサン・マケーニュ)とアメリ(モード・ウィラー)の出逢いは、「公園でジョギングしている途中にぶつかる」という少女漫画のようなものであるし、二度目の出逢いは「暴漢に襲われていたアメリをたまたま通りかかったアルマンが彼女の悲鳴を聞いて駆けつける」という最初よりもドラマテイックな状況だ。加えて、アルマンは暴漢にナイフで刺され、生死の境をさまよう。

映画の序盤に起こる出来事を書き出していくと、かなりドラマティックに見えるが、映画そのものは「ドラマテイック」という言葉とは対極にある。むしろドラマティックであることを執拗に避けていると言ってよい。

その後も、アルマンの友人が脳梗塞で倒れたり、アメリが雪山の頂上で突然泣き出したり、アルマンの友人の彼女のいとこが自殺を計画したり、いろいろなことが起こるのだが、どんな出来事も「朝起きてパンを食べた」というくらいの熱量で語られるので、まるで何の変化もないかのように思えてくる。

二つのカップルの馴れ初めの話であるのにもかかわらず、自分が感じたのは幸福というより、何者でもない者たちの何者でもないことから来るぼんやりとした不安だ。まるで「どんな出来事があっても、私たちは所詮何者でもない」と言っているかのような。

ラスト、太陽に背を向けて立つアメリの顔は影に覆われ、表情も何もわからない。その立ち姿はどこか不気味である。

間の抜けたユーモアを見られるが、この映画が目指すところは見通すことのできない薄暗い谷間の底みたいな場所なのではないだろうか。
糸くず

糸くず